一汁三菜というのは、飯、汁、主菜、副菜、副々菜の五つ。日本の伝統的な食卓の形式だ。素朴だけれど、栄養価の面でもとても優れており、世界的な評価はすこぶる高い。
ところが明治維新後、海外グルメの大軍勢が日本にどっと押し寄せ、気づけば我らが伝統食文化は、まるで押し入れの奥で眠る古い布団のように存在感を失っていった。このままでは味噌汁が歴史の教科書に載ってしまう。
この悲劇を前に、僕は決意した。
「よし、わたしがやる。誰も頼んでないけど、わたしがやる」
箸を置くと、勢いよく立ち上がった。
——日本の食卓を未来へつなぐために。
もちろん冗談だ。そんな大それたことは微塵も考えてはいない。
ただ、毎日台所に立って味噌汁を作り、娘の弁当を詰めながら、こう思う。
僕たちは皆、毎日いろんな悩みや苦しみを抱えながら暮らしている。その解決策はいつも足元——食卓にあると。「健全な肉体に健全な魂宿る」とよく言うけれど、体が健康であれば心も元気である。シンプルな原則だが、これが真理であることを僕は半世紀ほど生きてきた経験から実感している。
この記事に書いていること
食の迷宮に迷い込んだ
子どもが生まれてから、食について真剣に考え始めた。
正直に言うと、それまではなんだって気にせず食べていた。忙しい取材の合間にコンビニのおにぎりを齧って一日を終えることもあったし、深夜の締め切り前にカップ麺もよく食べた。体さえ動けばそれでいい、当時はそう思っていた。
子どもが生まれたことで変わった。この子に何を食べさせたらいいんだろうか。そんなことを考えていた矢先、自分自身も体を壊してしまった。こうして食の迷宮に迷い込んでいった。
糖質制限、グルテンフリー、高アルカリ食、腸活、オーガニック……。本屋の健康コーナーにずらりと並ぶ本を片端から読み漁ったが、読めば読むほど混乱は深まるばかり。ある本では「炭水化物は悪」と主張し、別の本では「炭水化物をしっかり食べろ」と書いてある。「油は控えめに」という本の隣に「油を積極的に摂れ」という本が平然と並べられている。
巨大迷路のど真ん中に投げ込まれた気分だった。
ふと気がついた。
この国には、すでに答えがあるじゃないか。
千年以上かけて磨かれた知恵
味噌、醤油、お酢、みりん、塩麴——これらは単なる調味料ではない。長い時間をかけて菌が発酵によって生み出した、生きた食品だ。
ぬか漬け、納豆、甘酒、日本酒といった発酵食品も、千年以上前から日本の食卓に並んできたものである。現代の栄養科学が「腸活」だなんだと大騒ぎするはるか昔から、僕らの先祖は腸を大切にしてきた。食品添加物も精製油も高果糖コーンシロップも存在しなかった時代、人々は本能的に体に良いものを選び取っていたのかもしれない。
和食の一汁三菜というスタイルでは、穀物、肉魚卵、野菜、海藻、豆類、発酵食品が自然とそろう。現代の栄養学が「食材の多様性」や「腸内細菌の多様性」を訴えた時、一汁三菜はすでに答えを持っていた。
2013年、ユネスコが「和食(Washoku)」を無形文化遺産に登録したのも、伊達ではないのだ。
明治以降に失われたもの
明治維新を境に、日本の食卓は大きく変わった。文明開化の名のもとに西洋食が流入し、戦後はアメリカ型の食文化が急速に広まっていった。パン食が普及し、植物性マーガリンが健康な油として推奨され、インスタント食品が台所に入り込んできた。
生活は便利になった。けれども代わりに失われたものがある。
たとえば、梅干しを干す夏の仕事。七月の終わり、晴れた日を見計らって縁側にざるを広げ、梅をひとつひとつ並べていく。裏返して、また並べる。ただそれだけのことなのに、その作業の中に、季節と向き合う時間があった。旬の野菜を中心に据えた献立、丁寧に出汁を引くこと、手前味噌を作ること、ぬか床を育てる習慣——こうした暮らしの知恵が少しずつ、押し入れの奥に追いやられていったのだ。
その結果として現われているのが、現代人に広がる生活習慣病や不定愁訴ではないか——。僕はそう考えている。もちろんそれだけが原因とは言い切れないけれど、まったく無関係でもないはずだ。
答えは足元にある
このサイト「おかえり!」では、発酵食文化を始め、日本の伝統食にまつわる記事をたくさん書いている。味噌、醤油、お酢、みりん、麴、日本酒、酒粕、漬け物、納豆、梅干し——。日本の食は、もはやひとつの宇宙だ。
それだけではない。油の選び方を見直すだけで、体の炎症反応が変わる。一汁一菜の考え方を知ると、料理に対するプレッシャーがぐっと減る。調味料の選び方ひとつで、毎日の食卓ががらっと変わる。
食べることは、栄養補給であると同時に手当てでもある。自分の心身のケア。家族のケア。まずは今日の味噌汁を、少し丁寧に作るところから始めればいい。
そんな小さな一歩を、このサイトがそっと後押しできたらうれしい。
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※このブログの情報は、医療機関の監修を受けておらず、病気の診断、治療、予防を目的とするものではありません。記事内でご紹介している効果効能についても栄養素や成分に関するものであり、商品やサービスに関するものではないことにご注意ください。体調不良が長く続く場合は、医療機関で相談することも大切です。食卓でできること、専門家の力を借りること、その両方が、あなたの体を支えます。

