誰も頼んでないけど、わたしがやる。——和食で、家族の健康を守る話

一汁三菜

一汁三菜というのは、飯、汁、主菜、副菜、副副菜の五つ。日本の伝統的な食事スタイルだ。素朴だけれど、栄養価の面でもとてもすぐれており、世界的な評価もすこぶる高い。

ところが明治維新後、海外グルメの大軍勢が日本に押し寄せ、気づけば伝統食文化は、まるで押し入れの奥で眠る古い布団のように存在感ゼロ。このままでは味噌汁が歴史の教科書に載ってしまう。

この悲劇を前に、葉山は決意した。

「よし、わたしがやる。誰も頼んでないけど、わたしがやる」

箸を置くと、勢いよく立ちあがった。

——日本の食卓を未来へつなぐために。


冗談です。そんな大それたことはみじんも考えていません。

ただこう思います。

わたしたちはみな、毎日いろんな悩みや苦しみを抱えながら暮らしています。その解決策はいつも足元——食卓にあると。

「健全な肉体に健全な精神宿る」とよく言いますが、体が健康なら心も元気——。とてもシンプルですが、これは真理だとわたしは感じていますので。

食の迷宮に迷い込んだ

子どもが生まれてから、食について真剣に考え始めました。

以前は正直、なんでも食べていました。忙しい取材の合間にコンビニおにぎりで一日を終えることもあったし、深夜の締め切り前にカップ麺もよく食べた。体さえ動けばそれでいい——そう思っていました。

でも、子どもが生まれると変わります。この子に、いったい何を食べさせたらいいんだろう。そんなことを考えていた矢先、自分自身も体を壊してしまった。こうして食の迷宮に迷い込んでいきました。

糖質制限、グルテンフリー、アルカリ食、腸活、オーガニック……。本屋の健康コーナーに並ぶ本を片端から読みましたが、読めば読むほど混乱が深まる。ある本では「炭水化物は悪」と言い、別の本では「炭水化物は主食」と言う。「油は控えめに」という本の隣に「良質な油は積極的に摂れ」という本が平然とならべられている。

巨大迷路のど真ん中に放り込まれたような気分でした。

そのとき、ふと気がつきました。

日本人には、すでに答えがあるじゃないかと。

1000年以上かけて磨かれた知恵

味噌、醤油、お酢、塩麹、みりん。これらは単なる調味料ではありません。長い時間をかけて菌が育て、発酵が生み出した、生きた食品です。

ぬか漬け、梅干し、納豆、甘酒——。どれも何百年も前から日本の食卓にならんできたものです。現代の栄養科学が「腸活」と大騒ぎするずっと前から、わたしたちの先祖は腸を大切にしていた。添加物も、精製油も、高果糖コーンシロップも存在しなかった時代に、人々は本能的に体にいいものを選び取っていたのです。

一汁三菜という食事スタイルでは、主食・タンパク質・野菜・海藻・発酵食品が自然とそろいます。現代の栄養学が「食材の多様性」や「腸内細菌の多様性」を訴えたとき、一汁三菜はすでにその答えを持っていました。

2013年、ユネスコが「和食」を無形文化遺産に登録したのも、伊達ではないのです。

明治以降に失われたもの

明治維新を境に、日本の食卓は大きく変わりました。文明開化の名のもとに西洋食が流入し、戦後はアメリカ型の食文化が急速に広まっていった。パン食が普及し、植物性マーガリンが「健康な油」として推奨され、インスタント食品が台所に入り込んできました。

生活は便利になりました。でも代わりに失われたものがある。

発酵食品を毎日食べる習慣。旬の野菜を中心に据えた献立。丁寧に出汁を引くこと。手前味噌をつくること、ぬか床を育てること、梅干しを干す夏の仕事——。そうした暮らしの知恵が少しずつ、押し入れの奥に追いやられていったのです。

その結果として現れているのが、現代人に急増する生活習慣病や不定愁訴ではないか——わたしはそう考えています。もちろん、それだけが原因とは言い切れません。でも、無関係ではないはずです。

足元に、答えがある

このサイト「おかえり!」では、発酵食文化を軸に食にまつわるテーマを書いています。塩麹、味噌、お酢、梅干し、納豆、甘酒——日本の発酵食品は、それだけでもはやひとつの宇宙です。

発酵だけではありません。油の選び方を見直すと、体の炎症反応が変わります。一汁一菜という考え方を知ると、料理へのプレッシャーがぐっとラクになります。醤油の選び方一つで、毎日の食卓が変わる。

食べることは、ケアです。自分へのケア、家族へのケア。むずかしく考えなくていい。まず今日の味噌汁を、少し丁寧につくるところから始めればいい。そんな小さな一歩を、このサイトが後押しできたらうれしいです。

はやま

「誰も頼んでないけど、わたしがやる」と啖呵を切ったわりには、記事を書いてるだけという地味な活動ですが(笑)、どうかお付き合いください。でもその一杯の味噌汁が、誰かの明日を変えると信じています。

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