世界のお茶棚から——カモミール、ルイボス、パウダルコ、スリッパリーエルム、そして……

様々な茶葉

我が家の台所の棚には、小さな世界地図がある。

ヨーロッパの草原、南アフリカの荒野、アマゾンの密林、北米の森——。といっても、並んでいるのはお茶の袋や缶である。緑茶や番茶といった日本のお茶のほかに、世界各地の草や木の皮を煎じるお茶が、棚にぎっしり詰まっている。

お茶というものは世界中にある。何千年も前から、人々は身近な草木を煎じて飲んできた。カフェインもタンニンも含まないものが多く、体への刺激が少ないから、毎日飲んでも疲れない。僕は気分や体調に合わせて、ローテーションしながら飲んでいる。

この棚がここまで充実したのには理由がある。体を壊して療養していた頃、僕は世界中の伝統茶を片っ端から試したのだ。当時は不眠や冷え、頭痛、消化不良、定期的な高熱など、さまざまな不調を抱え込んでいた。

台所は薬棚であり実験室だった。効いたのか、気のせいなのか。自分の体だけを測定器にして一杯ずつ確かめていった。その結果、役に立たないと判じたものは容赦なく棚から排除した。

以下はその実験報告である。

カモミールティー|万能で美味

ヨーロッパからは、カモミール。ハーブティーといえばまずこれという定番中の定番だ。かの地では古くから家庭の常備薬として使われてきた。頭痛や胃炎、にきび、湿疹など、幅広い不調に用いられている。

眠れない夜にも、ささくれた気分にも、弱った胃にも——。この守備範囲の広さは、海の向こうの「おばあちゃんの知恵袋」の筆頭格といっていい。

淹れ方は簡単で、小さじ一杯をコップに入れ、熱湯を注いで三分から五分蒸らし、濾して飲む。甘みがほしければオリゴ糖がいい。

僕の実験結果はというと、胃腸の調子が悪いときと眠りが浅いときに好成績だった。寝る前に飲むとぐっすり眠れた。晩酌よりずっと体に良い。むろんお酒のほうが好きではあるが。

ルイボスティー|ミネラルの塊

南アフリカからは、ルイボスティー。現地で古くから飲み継がれてきた薬草茶で、アレルギー体質の人たちにも好まれているという。

鉄、カルシウム、カリウム、マグネシウム、亜鉛といったミネラルを含み、カフェインはゼロ。タンニンも少ない。夜に飲んでも目が冴えず、食事と一緒でも鉄分の吸収を邪魔しない。優等生だ。

ほんのり甘みがあって飲みやすい。僕は蜂蜜を少し混ぜる。こちらもカモミール同様、就寝前に飲むと眠りの質が上がった。飲み残しは化粧水代わりになるというから、最後の一滴まで働き者だ。

パウダルコ|偽物で十分

アマゾンの密林からは、パウダルコ。流域に自生する木の内皮を煎じたお茶で、現地では古くから万能薬として頼りにされてきた。風邪から糖尿病、がんまで幅広く用いられるそうで、欧米でも抗真菌、抗細菌、抗ウイルスのハーブとして重宝がられている。

ただ、このお茶は市場が少々きな臭い。「本物はこれだけ。あとはぜんぶ有効成分を含まない偽物」と主張する商品が、ひと月分二万円から五万円で売られているのである。

僕はいつも偽物を買っている。いろいろ調べた結果、偽物で十分と踏んだからだ。偽物と知りつつ堂々と選ぶ買い物というのも、世の中そうそうないだろう。

樹皮五グラムを一リットルの水で三十分ほど煮出す。癖のある苦みは、オリゴ糖を入れるとだいぶ飲みやすくなる。強い殺菌力が身上だが、腸の善玉菌まで道連れにしかねないので、ぬか漬けや味噌、ヨーグルトといった発酵食品と併用するようにしている。

偽物を飲み続けてどうなったか? 風邪を引きにくくなり、高熱を出す頻度が減った。プラシーボ効果だとしても十分すぎるだろう。

スリッパリーエルム|ぬめりが腸壁を守る

北米の森からは、スリッパリーエルム。アカニレという木の内樹皮の粉末で、ネイティブアメリカンが古くから自然療法に使ってきた。

粉をぬるま湯に溶かすと、独特のぬめりが出る。正直、見た目はあまりおいしそうではない。だがこのぬめりが腸の内壁を守ってくれるという。毎朝一杯飲んでいた時期、僕は胃もたれと縁が切れ、便通も良くなった。日本では手に入りにくいかと思いきや、ネット通販で普通に買える。

開拓時代のアメリカで中絶に使われた記録があり、妊娠中や妊娠の予定がある場合は禁忌とされるが、その予定は今世にはない。

柿の葉茶|いつかは自分で

最後は、世界をぐるりとめぐって日本へ帰る。柿の葉茶だ。

実家には柿の木があって、毎年秋になると箱いっぱいの柿が届く。甘くてジューシーで、買ったものとはまるでちがう。妻の実家からも柿は届くのだが、うちの実家のほうがずっとおいしいと妻も言う。

その葉を煎じてお茶にできると知ったのは、ずいぶんあとのことだ。柿の葉はビタミンCが豊富で、重量当たりで比べるとレモンをはるかに上回る。それでいて酸っぱくない。果物の酸味の正体はおもにクエン酸などの有機酸で、ビタミンCそのものはほとんど酸味に関与しないのだ。

カフェインもなく、風味はマイルドで胃にもやさしい。

世界中のお茶を試して、一周して帰ってきた先が、実家の庭に立っていた木だったとは。灯台下暗しとはよく言ったものだ。

だからいつか自分で摘んだ葉で淹れてみたい。庭に柿の木を植え、秋に葉を摘んで、干して、刻んで、煎る。

そういう暮らしのなかで飲む一杯を、僕の舌はもう楽しみにしている。