ハンバーグはいずこへ?——「スマホ食べ」が起こす深刻な栄養漏れ

ハンバーグ

いきなりですが、胸に手を当てて白状してください。

いまこれをスマホで読んでいるあなたは、片手で箸を持ち、もう片方の手で画面をスクロールしながら、何かを口に放り込んでいる最中ではありませんか。

もしそうなら、至急お伝えしたいことがあります

いま、あなたの胃袋に落ちていったその食物はおそらく、あなたの体にとって十分な栄養にはなりません。わたしたち現代人はこのところ、実に深刻な「栄養漏れ」を起こしているからです。

偉そうなことをいっていまが、わたし自身も例外ではありません。自戒の念からこれを書いているのです。

はやま

画面を見ながらの食事は、食後の満腹感が低く、数時間後にスナック菓子などを食べる量が約二倍に跳ねあがるそうです。目や脳が別の情報を処理していると、脳の満腹中枢への信号伝達が遅れ、お腹に食べ物は届いているのに、脳が「まだ満足していない」というバグを起こすそうです。

ハンバーグと宝くじとYouTube

ある日の昼下がり、わたしはお取り寄せした沖縄あぐー豚のハンバーグと対峙していました。

箸で割ると、なかから肉汁がじゅわっ。完璧なビジュアルに食欲がそそられます。

「よし、いただくとしよう」

口に入れようとした刹那、ふと先日買った宝くじの当選結果がすでに出ていることを思い出しました。傍らのスマホをつかみ、いつものようにドキドキしながら確認します。

……無念。

それにしても定期的に買っているのに一向に当たらない。宝くじの当選確率はいったいどのくらいなのだろうか。ハンバーグを口に運びながら、検索してみます。

——サマージャンボの1000万円以上の当選確率は0.0000008%。一年以内に人類が絶滅するサイズの隕石が地球に衝突する確率は0.002%。

二度と買うものか。

ハンバーグを切り分けながら、次々に出てくるおすすめ動画を見ていると、「人間が一生のうちに出す垢は米俵七俵分」という情報が出てきた。

うへっ。食事中になにをいう。そんなこと聞いてないぞ。

気もそぞろで口をもごもごと動かしながら、次々に動画を渡り歩いていきます。するとこんな話が。

——寝言に返事をしてやると、寝言をいった人の脳は相当なダメージを受ける。

ふむ。わが家の猛禽(妻)に今度試してみるとしよう。想像するだけで、薄ら笑いが浮かんできます。

これをきっかけに、脳は驚異的なマルチタスクを開始しました。

目ではスマホを追いかけながら、頭は動画の内容を必死に理解しようと務め、さらに「夕方の打ち合わせまでに、資料の修正を間に合わせないといかん」「明日の取材の質問メモはどうしよう」などと複数のタスクを並行して進めていきます。

その間、右手は間断なく箸を動かし、肉片を口へ口へと運び続けていました。

スマホ食べで、食べた実感がない

興味のある動画がなくなり、ふと我に返ったとき、わたしは愕然としました。お皿の上が、真っ白なのです。

「あれれ? ハンバーグはいずこ?」

居間に泥棒でも入ったのかと思いましたが、口腔内にかすかに残るデミグラスソースのコクとうま味が、こういいました。

——食べたのは、まちがいなくおまえだよ。

しかしわたしは、あぐー豚の味も食感も余韻さえも感じてはいない。これでは、せっかくのハンバーグが台無しです。

これこそが、わたしたちがいくら食べても満たされない「栄養漏れ」の正体です。

実は脳科学の世界でも、スマホを見ながらの食事は「脳が食べたことを忘れる」とわかっているそうです。脳の満足度も半分くらいになるとか。

はやま

画面を見ながらだらだらと食事をしているとき、脳はマルチタスク状態となり、異常なエネルギーを消費しています。最初の数口だけでも味や食感に集中すると、脳の過剰なアイドリングがぴたりと止まり、瞑想を行なったのと同じような、脳の休息効果が得られるとわかっています。

イワン・パブロフが鳴らした警鐘

ロシアの生理学者イワン・パブロフの有名な実験「パブロフの犬」では、食事の直前に食べ物を見たり嗅いだりするだけで、脳が先回りして胃酸や消化酵素をどばっと放出することがわかっています。

医学用語で「頭相(とうそう)」といいます。

食事前からスマホに気をとられていると、脳がこの仕事をボイコットしてしまうのです。胃腸のスイッチがオフのまま、食べ物が不意打ちのようにやってくる。

どうなるか。

消化がうまくいきません。胃もたれを起こしやすい。

情報という、噛みごたえのない主食

「何を食べるか」に関心が集まる時代です。

SNSで人気のランチ、スイーツ、オーガニック、無添加、栄養バランス——。みんな必死に何かを追いかけている。

けれど、どんなにいいものを食べても、心ここにあらずでは単なる「栄養補給」——どころかその栄養ですら、きちんと吸収できていません。

大事なのは、食卓と真剣に向き合い、そこに意識を集中させることです。

わたしと一緒に、まずは最初の三噛みから始めましょう。

スマホを置き、テレビを消して、食べ物の味わいと食感、鼻に抜ける匂いに没頭する。

ちなみにこれ、食べ物だけの話ではありません。

食べながら見るスマホにしても、SNSや動画サイトの切りとられ、ダイジェスト化された情報は、物事を咀嚼する能力を確実に低下させています。

やわらかく食べやすいものばかり摂取していると、歯や顎や消化器が退化するように、情報を消化する力も退化していくのです。

明日からは毎食、最後まで全神経を集中させていただこうと思います。消えたあぐー豚の盗難届けを出すようなことがないように。


Anticipatory physiological regulation in feeding biology: Cephalic phase responses
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2297467/

Eating attentively: a systematic review and meta-analysis of the effect of food intake memory and awareness on eating behavior
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23446890/

Mindful Eating: The Art of Presence While You Eat
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28848310/

An Exploratory Study of a Meditation-based Intervention for Binge Eating Disorder
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22021603/