捨てるところが、なかった。——酒粕という、命の残りかす

酒粕

「粕」という字を、じっくり見たことがありますか。

米へんに、白。

お米を精白して白くすると「粕」になる——。この一字に、先人の静かな皮肉が込められているように思います。白くすることで失われるもの。ぬかや胚芽に含まれる酵素、ビタミン、ミネラル、食物繊維。それらをひっくるめて「粕=かす」と呼んだのです。

酒粕もそうです。日本酒を搾ったあとに残る「かす」。でも実はこの「かす」のなかに、発酵の過程で生まれた栄養がぎゅっと凝縮されている。捨てるところが、なかった。先人はそれを知っていたから、かす汁にし、粕漬けにし、甘酒にして、冬の食卓に欠かさずならべてきたのです。

発酵が生み出す、もうひとつの命

日本酒は、米と麹と水だけで造られます。麹菌がデンプンを糖に変え、酵母がその糖をアルコールに変える。その長い発酵の過程で、米にはなかったものが生まれます。アミノ酸、ビタミンB群、酵素、有機酸——。

搾り出したお酒のなかにそれらは溶け込んでいますが、搾りかすの酒粕にも、同じように残っています。いや、濃縮されているぶん、栄養密度は高いともいえます。

市販の酒粕を選ぶときは、添加物のないものを選ぶのがおすすめです。防腐剤が入っていると、腸内の善玉菌に影響が出ることがあります。純米酒から造られた、天然醸造のものを選ぶと安心です。スーパーで売られているものの多くは加熱処理されていますが、それでも栄養は十分残っています。

冬に飲む、東北の味噌汁

食卓アドバイザーとして、僕が長年座右の書にしているのが東城百合子さんの『家庭でできる自然療法』です。自分でも試してよかったものだけをお伝えするようにしていますが、酒粕についてもこの本に教わりました。

東城さんがとくに勧めているのが、酒粕と大根の葉を合わせた味噌汁です。

大根の葉を陰干しでカラカラに乾かし、水で戻してゆがいたものを、酒粕や高野豆腐と一緒に味噌汁にする。東北地方で古くから受け継がれてきた冬の郷土食です。飲むと体が芯から温まる、と東城さんは書いています。

冷え性の方、なんとなく無気力な方、体が弱りがちな方——そういう方にとって、冬の酒粕はとりわけ心強い食材です。夏には夏の、冬には冬の、体に合ったものを選ぶ。その季節の知恵が、この一杯の味噌汁に詰まっています。

はやま

かす汁、粕漬け、酒粕甘酒——。酒粕の使い道は思いのほかたくさんあります。粕漬けは魚だけでなく、豚肉や鶏肉にも合います。一晩漬け込むだけで、旨味がぐっと深くなる。冷蔵庫に酒粕を常備しておくと、冬の料理の幅がひとつ広がります。

かすと呼ばれてきたもの

味噌醤油酒、みりん甘酒——。このカテゴリーで書いてきた発酵食品には、どれも共通するものがあります。

菌が働いて、時間をかけて生まれるもの。工場で短時間に大量生産されたものには出せない、複雑な旨味と栄養を持つもの。そして先人が「これはいい」と感じとって、何百年も食卓にならべてきたもの。

酒粕も、そのひとつです。

「かす」と呼ばれてきたけれど、捨てるところはなかった。むしろ、かすのなかに命が宿っていた。先人はそれを知っていたから、冬の食卓に欠かさず使い続けてきたのでしょう。