テレビで甘酒が特集されるたびに、妻はスーパーへ走る。
「飲む点滴なんだって」と言いながら、紙パックの甘酒をどんと買ってきて冷蔵庫に入れる。数日で飲み切って、そのまましばらく忘れる。これが、わが家の甘酒との長年の付き合い方だった。
ある冬の夜、わたしは炊飯器で米麹甘酒を仕込んだ。翌朝、できあがったものを小鍋でさっと温めてカップに注ぎ、妻と娘に差し出した。
「……わ! 全然違う。おいしい」
そのときの顔が、なかなかよかった(笑)。
それ以来、わが家の甘酒はスーパーの紙パックから、炊飯器製に変わった。
江戸の夏は、甘酒の季節だった
意外に思われるかもしれませんが、甘酒はもともと夏の飲み物です。
俳句の季語でも、甘酒は「夏」に分類されます。江戸時代には「甘酒売り」という行商人が街を歩き回り、暑い夏の盛りに甘酒を売り歩いていました。今でいえば、かき氷の屋台みたいなものです。
なぜ夏に? と思いますよね。
滋養強壮のためです。江戸時代の夏は、今よりずっと過酷でした。冷房はない。重労働が続く。熱中症で命を落とす人も少なくなかったそうです。そんな時代に、グルコース(ぶどう糖)やアミノ酸を素早く補給できる甘酒は、夏を乗り越えるための大切な栄養源だったのです。
「飲む点滴」という言葉は現代の表現ですが、江戸の人々はそのことを体験的に知っていたのです。
ちなみに甘酒の歴史はさらに古く、奈良時代の書物にも登場します。日本人は1000年以上、この発酵飲料とともに生きてきた。そう考えると、なんだか感慨深いものがありますね。
甘酒には、二種類ある
実はここが、甘酒を語るうえでいちばん大切なポイントです。
甘酒と一口に言っても二種類があり、作り方がまったく異なります。スーパーで売られているものも、手作りするものも、この二種類のどちらかです。混同している方が多いので、まず整理しておきます。
米麹甘酒——麹が生み出す、自然な甘さ
米と米麹(こめこうじ)を発酵させて作る甘酒です。
アルコール分はゼロ。子どもも妊婦さんも飲めます。市販品に「ノンアルコール」と表記されているものは、ほぼこちらです。
甘さの正体は、麹菌が米のデンプンを分解して生成したグルコース(ぶどう糖)です。砂糖をひと粒も加えていないのに、自然なやさしい甘さになる。これが米麹甘酒の魅力です。
麹菌(Aspergillus oryzae)のはたらきについては塩麹の記事でも詳しく書きましたが、この菌は本当によく働きます。味噌も、しょうゆも、日本酒も、みりんも——日本の発酵食文化を陰で支えているのは、この菌なのです。
酒粕甘酒——日本酒の恵みを、一杯に
日本酒を醸造するとき、もろみを搾った後に残るのが酒粕です。その酒粕をお湯に溶かし、砂糖を加えて飲むのが酒粕甘酒です。
少量のアルコールが含まれます(製品によりますが1〜8%程度)。子どもや運転前の方には向きません。体がぽかぽか温まる感覚は、このアルコールの影響もあります。
鍋でさっと作れるので手軽。寒い日に飲みたくなる甘酒といえばこちらです。スーパーの酒粕売り場で一年中手に入りますし、日本酒の蔵元が出している上質な酒粕も、最近はネットで気軽に買えるようになりました。
生姜を少し加えると体がより温まって、これがまたおいしい。

ちなみに日本酒も麹菌を使って作ります。簡単に言うと、甘酒の糖分を酵母で発酵させてアルコールに変えたものがお酒。だからお酒は甘酒みたいに甘くないわけです。もろみというのは発酵が終わった段階のどろどろの液体。これを絞ると透き通った日本酒になります。
「飲む点滴」と呼ばれる理由
点滴の主成分は、グルコースとアミノ酸です。
米麹甘酒には、この両方が豊富に含まれています。しかも消化の負担がとても小さい形で含まれている。だから体がつらいときにも負担なく栄養を摂れる飲み物として、「飲む点滴」と呼ばれるようになりました。
具体的には、以下のような栄養素が含まれています。
- グルコース(ぶどう糖):消化なしにすぐエネルギーになる
- 必須アミノ酸:体内で合成できない、食事から摂るべきアミノ酸
- ビタミンB1・B2・B6:エネルギー代謝に関わるビタミン群
- 葉酸:細胞の生成に関わる栄養素
- 食物繊維・オリゴ糖:腸内環境を整える成分
腸内環境を整えるプレバイオティクスでも触れていますが、甘酒に含まれるオリゴ糖は腸内の善玉菌のエサになります。栄養を摂りながら腸を整える、一石二鳥の飲み物ともいえます。
ただし、グルコース(糖質)が多いのも事実です。飲みすぎには注意が必要で、コップ一杯(200ml程度)を目安に、食事の一部として楽しむくらいがちょうどいいと思います。
炊飯器でつくる米麹甘酒
「手作りなんて難しそう」と思っている方、大丈夫です。炊飯器の保温機能さえあれば、特別な道具はいりません。
ポイントはひとつだけ。温度を60℃前後に保つこと。麹菌の酵素がもっとも活発にはたらく温度がここで、これさえ守れば自然においしい甘酒になります。
材料(作りやすい量)
- 米麹(乾燥):200g
- ご飯(冷ごはんでも可):200g
- 水:400ml
作り方
- 水を60℃程度に温め、炊飯器にご飯と一緒に入れてよく混ぜる。
- 温度が60℃前後になったことを確認し、米麹を加えてさらによく混ぜる。
- 炊飯器のふたを開けたまま(または半開きにして)、濡れ布巾をかけて保温モードにする。
- 8〜10時間保温したら完成。途中で一度かき混ぜると均一に仕上がります。
炊飯器の保温温度は機種によって70〜80℃のものも多く、60℃を超えると麹菌の酵素が失活してしまいます。ふたを開けて布巾をかける方法で60℃前後をキープするのがコツ。温度計があると安心ですが、なくても「手で触れられるくらいの熱さ」を目安にすれば大丈夫です。
出来上がった甘酒は冷蔵庫で5日ほど保存できます。そのまま飲んでも、温めても、ヨーグルトや豆乳に混ぜてもおいしい。砂糖の代わりに料理の甘みとして使う方法も、最近は人気です。
鍋でつくる酒粕甘酒
こちらはもっと手軽です。酒粕さえ買ってくれば、10分でできます。
材料(2人分)
- 酒粕:50g
- 水:400ml
- 砂糖:大さじ1〜2(好みで調整)
- 塩:少々
- 生姜(すりおろし):お好みで
作り方
- 鍋に水を入れて中火にかける。
- 酒粕を小さくちぎって加え、混ぜながら溶かす。
- 砂糖と塩を加えて味を整える。
- 沸騰直前で火を止め、好みで生姜を加える。
酒粕はかたいまま鍋に入れると溶けにくいことがあります。あらかじめ少量の水に浸けてやわらかくしておくか、手でちぎって小さくしてから入れると溶けやすくなります。
アルコールが含まれるので、子どもには米麹甘酒を。大人のほっとひと息に、酒粕甘酒を。そんな使い分けが、わが家では定着しています。
まとめ
- 甘酒は江戸時代、夏の滋養強壮飲料として庶民に愛されていた(俳句の季語は「夏」)
- 甘酒には「米麹甘酒(ノンアルコール)」と「酒粕甘酒(少量アルコール含む)」の二種類がある
- 米麹甘酒はグルコース、アミノ酸、ビタミンB群などを含む栄養豊富な発酵飲料
- 炊飯器の保温機能で、8〜10時間あれば手作りできる
- 酒粕甘酒は鍋で10分、体を温めたい日の定番
- 飲みすぎに注意しつつ、毎日の食事に取り入れてみましょう
甘酒は、日本人が1000年以上かけて育んできた発酵文化のひとつです。テレビのブームに乗ってスーパーの紙パックを買うのも悪くはない。けれど、一度くらい手作りしてみてください。
炊飯器に仕込んで一晩。翌朝、ふたを開けたときの甘い香りは、なんともいえない幸福感を運んできてくれます。
はやま
※このブログの情報は、医療機関の監修を受けておらず、病気の診断、治療、予防を目的とするものではありません。記事内でご紹介している効果効能についても栄養素や成分に関するものであり、商品やサービスに関するものではないことにご注意ください。体調不良が長く続く場合は、医療機関で相談することも大切です。食卓でできること、専門家の力を借りること、その両方が、あなたの体を支えます。

