キャンプ場に着いたら、まずテントを張って、焚き火の準備をします。
薪を組んで、火を熾して、お酒を一杯注いで、椅子に深く腰をおろす。それだけです。あとはただ、火を眺めています。炎が揺れるのを見ています。薪がはぜるパチパチという音を聞いています。煙のにおいをかいでいます。
何時間でも、そうしていられます。
はやま
子どものころから、火が好きだった
火が好きです。昔から。
実家には畑と庭があって、秋になると刈りとった雑草や収穫後の野菜の残りを乾かして、庭でまとめて燃やしていました。いまの住宅地ではまず見られない光景ですが、当時はごく当たり前の秋の風景でした。
燃え盛る炎を見ながら、妙にテンションがあがっていた記憶があります(笑)
そんなとき母が、さつまいもを新聞紙とアルミ箔でさっとくるんで、焚き火に埋めてくれました。オーブンの焼き芋とは比較にならないくらいおいしかったことを覚えています。
近所の田んぼも、稲刈りのあとに焼いていました。煙が流れてきて、洗濯物ににおいがついたりしましたが、嫌な臭いだと思ったことは一度もありません。いまは見かけなくなりましたが。
子どものころ、友人たちと葦か茅が群生している場所で焚き火をしていたら、延焼してしまったこともあります。友人の親にこっぴどく叱られました。いまだから笑い話ですが、あのときは本当に肝が冷えました。
原始の記憶、とでも言うしかない
焚き火の動画が、動画サイトで人気だといいます。
炎がゆらゆらと揺れているだけの映像を、何時間でも見ていられるという人が世界中にいる。わかります。僕もそのひとりだから。
火を見ると、テンションが一段上がります。理屈抜きに。煙のにおいをかぐだけで、なにか懐かしいような、落ち着くような、不思議な気持ちになります。
「原初の記憶」とでも呼ぶしかないような気がしています。
人間が火を使い始めたのは、百万年以上前のことだそうです。ホモ・エレクトゥス——現代人の遠い祖先たちが、火を手にしました。それからずっと、人間は夜に火を囲んで過ごしてきた。火の前で食べ、語り、眠った。その記憶が、どこかに刻まれているとしたら——。
火を見ると落ち着く感覚の正体は、そういうものかもしれません。
火が料理を、料理が人間を変えた
火は、料理を生みました。
加熱することで食材の消化率が上がり、摂取できるカロリーが増えた。その余剰エネルギーが脳の発達を支えたという仮説があります。料理することが、人間を人間にしたのかもしれないという話は、以前に書きました。
夜、火を囲んで過ごす時間が、言語を生んだという説もあります。日が暮れて、手仕事ができなくなる。炎の揺れる明かりのなかで顔を見合わせながら、なにかを話す必要が生まれた。火を囲んで、物語が生まれた。
そう考えると、焚き火を前にすると落ち着く感覚は、単なる気のせいではないのかもしれません。
かまどから、IHへ
それから百万年以上が経って、人間の台所から「火」が消えつつあります。
かまどで炊いた時代には、火を熾すことそのものが料理の始まりでした。薪の具合、風の向き、炎の色で火加減を読んだ。ごはんを炊くということは、火と向き合うことでもありました。
囲炉裏は部屋の中心に火を置きました。七輪は食卓に火を持ち込みました。家族が火を囲む構造が、生活の基本でした。
ガスコンロになって、火は「道具」になりました。つまみをひねれば出てくる、消費する火。それでもまだ、炎は見えていました。
IHになって、炎が消えました。熱はあるが、火がない。安全で、清潔で、効率的です。でも台所から、あの揺れるものがなくなりました。
はやま
炭火がなぜ、格別なのか
キャンプで炭火を使うと、なにを焼いてもおいしくなります。
肉でも、野菜でも、魚でも。遠赤外線が食材の内部まで均一に熱を通すからだといいますが、それだけではない気がします。煙のにおいがまとわりつく。炎の揺れが食材を包む。五感ごと、料理に参加しているような感じがします。
焼き芋も、焚き火に放り込んだものにはオーブンでは出せないなにかがある。あれは遠赤外線の話だけでなく、火のそばで待つ時間の話でもあるかもしれません。
煙のにおいが、好きだ
煙のにおいが好きです。
焚き火の煙、野焼きの煙、燻製の煙。嗅ぐとなにかが落ち着く。
アーシングといって、裸足で土の上に立つと体にたまった静電気が抜けてすっきりする、という話を聞いたことがあります。煙にも似たような作用があるのではないかという話も、どこかで耳にしたことがある。科学的に証明されているかどうかは知りませんが、あながち気のせいではないような気がします。
祖父母の家で入った五右衛門風呂の煙が懐かしいのも、そういう理由かもしれません。
においは記憶に直接届くと、以前書きました。煙のにおいが呼び覚ますのは、遠い遠い、原始の夜の記憶なのかもしれません。
台所の火を、もう一度見てみる
今夜、ガスコンロに火をつけるとき、少しだけその炎を眺めてみてください。
青く、小さな火。あれだって百万年続く火です。かまどの火と、焚き火の炎と、つながっている火です。
そう思ったら、晩ごはんをつくる気分が、少し変わるかもしれません。
※このブログの情報は、医療機関の監修を受けておらず、病気の診断、治療、予防を目的とするものではありません。記事内でご紹介している効果効能についても栄養素や成分に関するものであり、商品やサービスに関するものではないことにご注意ください。体調不良が長く続く場合は、医療機関で相談することも大切です。食卓でできること、専門家の力を借りること、その両方が、あなたの体を支えます。

