発酵食品がいいと聞くんですけど、種類が多すぎて、何からどう始めればいいのかわかりません。
先日、こんな相談をいただきました。小さいお子さんを持つ30代のお母さんです。
納豆、味噌、ヨーグルト、ぬか漬け、キムチ、塩麹……。どれも良さそうで、どれから手をつけたらいいか迷う。健康にいいとわかっていても、中途半端に始めて続かないのが心配。その気持ち、よくわかります。
まずは、味噌汁とぬか漬け、このふたつで十分です。「それだけ?」と思われるかもしれませんが、これからお話しすることを理解すれば、きっと納得してもらえるはずです。少し長くなりますが、「腸はそもそも何者か」というお話から。
この記事に書いていること
腸内は、体外
わたしが発酵食品を毎日欠かさず食べるようになったのは、体を壊したことがきっかけでした。病院に行っても原因がわからない。薬を飲んでも根本的な解決にならない。そこで、もともと仕事で培った論文データベースの使い方をフル活用して、何百冊もの本と一緒に何百本という論文を読み漁りました。
そのなかで繰り返し出てきたテーマが腸内細菌でした。次々に文献を読みこなしていくうちに、わたしの頭の中にひとつの鮮明な絵が描かれていきました。それを一言で言うとこうです。
——腸の内側は、体内ではなく体外である。
口からお尻の穴まで、体の中心を一本の管が貫いています。消化管ですね。外からは見えませんが、消化管は外界から外界へ抜ける、食物の通り道です。厳密には体の外側なのです。胃壁や腸壁はわたしたちの体と外の世界を隔てる「壁」と言うとイメージしやすいかもしれません。
その壁の内側には、百兆個と言われる腸内細菌が暮らしています。わたしたちは細菌の力を借りながら、外の世界から必要なものだけを選んで体内に取り込んでいます。
そんなとき、その細菌の中に「体にとって有害な菌」がいると困ったことになります。壁のバリア機能が崩れてしまい、本来なら体内に侵入してはいけないものが体の中にどんどん入ってきてしまう。炎症を引き起こす菌、毒素を出す菌、あるいはその毒素、アレルギー反応を引き起こす物質、未消化の食べ物……。
それに対応しようと体がフル稼働し、さまざまな不調が表われる。
腸のバリア機能が健全である限り、体にはいつも上向きの力が働いています。それが自然治癒力と呼ばれるものだと、わたしは考えています。
はやま
発酵食品のすすめ
腸内の善玉菌を増やすためには、ふたつのアプローチがあります。
ひとつめ、善玉菌そのものを食事から補う「プロバイオティクス」。もうひとつは、腸内の善玉菌のエサになるものを食べる「プレバイオティクス」です。
発酵食品は前者のプロバイオティクス——生きた菌を腸に供給することのできる食品の代表格です。
ぬか漬けを始めとする漬け物、納豆、生味噌、甘酒、塩麴……。日本の食卓には昔からさまざまな発酵食品が並んでいました。発酵食品が体に良いというのは、何も新しい発見ではないのです。先人が長い時間をかけて編み出してきた生活の知恵です。それが、現代の科学によって少しずつ裏づけられてきたのです。
では、何から始めるべきか——。
毎日の味噌汁とぬか漬け
毎日、味噌汁を飲み、ぬか漬けを食べる。最初はこのふたつで十分だとわたしは考えています。
ぬか漬けは、植物性の生きた乳酸菌をたっぷり含んでいます。ヨーグルトなどの動物性乳酸菌と比べると胃酸にずっと強く、腸まで届きやすいという性質があります。何より野菜を漬けるだけで副菜がひとつ増えるというのがありがたい。発酵食品でありながら、普通のおかずとして食卓をにぎわせてくれます。
味噌汁は、麹、酵母、乳酸菌が複雑に絡み合った発酵食品です。ただし選び方にはちょっと注意が必要。お店に並んでいる味噌の多くは加熱殺菌されていて、生きた菌がいません。「非加熱」「酵母が生きている」などと書かれた生味噌がおすすめ。とはいえ、もっとも菌は死んでいても善玉菌のエサとして働いてくれます。あまり気にしすぎる必要はありません。
ヨーグルトはプレバイオティクスと一緒に
もちろん、ヨーグルトも良いです。うちの妻と娘は重度の花粉症だから、ヨーグルトは毎日かなりの量を食べています。
ただ、ひとつ知っておくといいのは、ヨーグルトの乳酸菌は胃酸でかなりの数が死んでしまうということ。腸でしっかり働いてもらうために役立つのが、先ほどお話ししたプレバイオティクス(善玉菌のエサ)です。代表的なのはオリゴ糖やイヌリン。こうしたものを一緒に食べることで、腸にたどり着いた乳酸菌がより活発に働いてくれます。
うちの娘にもプレバイオティクスの話をしたことがあります。ヨーグルトにジャムを入れて食べていたから、「それより菌のエサを一緒に食べたほうがいいよ」と、イヌリンパウダーを1キロ買って渡したのですが……。
数日後、娘が学校から帰ってくるなり、浮かない顔でこう言いました。
「パパ、学校の授業中におならが止まらなくなった。気のせいかと思ったけど、イヌリン食べた日だけそうなる」
腸内細菌たちが、突然ふってわいたごちそうに沸きかえって盛大な宴会でも始めたのでしょうね。教室の隅でひたすら息をひそめている娘を思い浮かべて、申しわけないやらおかしいやらで、笑いをこらえるのに苦労しました。
そんなことがあって、娘はしばらくイヌリンをやめていたのですが、最近また使い始めたようです。お腹も慣れてきたようです。イヌリンは最初、小さじ一杯くらいの少量から始めて、腸の様子を見ながら少しずつ増やしていくのがコツです。
どうしてもヨーグルトに甘みがほしい場合、砂糖よりオリゴ糖や蜂蜜がおすすめです。とくにオリゴ糖はプレバイオティクスのひとつで、善玉菌のエサになります。
余裕が出てきたら塩麹も
発酵食品を「食べる」だけでなく「料理に使う」という手もあります。
塩麹に肉や魚を漬けると、たんぱく質分解酵素の働きでやわらかくなるうえ、うま味も格段にアップします。塩の代わりに使えば料理全体にコクと甘みが出る。さらに麹には、でんぷんやたんぱく質を分解する酵素が約30種類も含まれています。ただし酵素は過熱すると壊れてしまう。消化を手伝ってほしいとき、我が家ではサラダなどにそのままかけて食べています。
塩麹はわたしも定期的に仕込んでいます。作り方はとても簡単で、米麹と塩と水を混ぜて数日置くだけ。あると便利というか、もはやないと困る存在です。
最初は適当で良い
なんにでも言えることですが、肩に力が入ると、つい完璧にやらなきゃという気持ちが前に出てきます。でも一度に多くを変えようとすると、どこかに無理が生じる。
だから、まずはひとつだけ。
生味噌で作った味噌汁を毎日飲む。ヨーグルトにイヌリンかオリゴ糖を入れてみる。ぬか床を始めてみる。塩麹を仕込む。どれでもいい。腸内環境は、一日で変わるものではありませんが、続けていくと体はかならず応えてくれる。
その変化をゆっくりと見守っていってください。
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