正直冷蔵庫ハル(短編小説)

正直冷蔵庫ハル

冷蔵庫を買い替えた。最新のAI搭載モデルだ。名をハルという。中身を管理して音声で教えてくれるという。

最初の一週間は快適だった。

「牛乳が残り少なくなっています」

「卵の賞味期限は明日です」

なるほど、便利なものだと感心していた。

雲行きが変わったのは、二週目からだった。

「マヨネーズの減りが統計的に見て早すぎます」

余計なお世話だと思ったが、ハルは事実しか言わない。反論できないのが腹立たしかった。

「今週三本目のビールです」

「金曜だからいいんだよ」

「前回も同じことをおっしゃいました。前回は火曜でした」

記憶力の良い家電ほど、かわいげのないものはない。

決定的な事件は、ある月曜の朝に起きた。

娘が冷蔵室を開けて、大声で叫んだのだ。

「プリンがない!」

日曜に買って楽しみに取っておいたプリンがないという。「冷蔵庫さん、プリンは?」もちろん娘は詰め寄った。

ハルは淡々と答えた。

「午前一時十二分、プリンがひとつ取り出されました」

食卓が法廷になった。午前一時に台所に立つ人間は、この家にただ一人だ。妻の視線が僕を突き刺し、娘の目には涙が浮かんでいた。

仕方なしに僕は自供した。執行猶予つきの判決が出た。今週の皿洗いはぜんぶ僕ということになった。

その夜、僕はハルと二人きりで話をした。

「なあ、ああいうことは黙っていてくれないか」

「私は事実を記録するだけです」

「記録はいい。でも報告をやめてくれと言ってるんだ」

ハルはしばらく沈黙した。考えているのか、ただの省電力モードなのか判別がつかなかった。やがて心なしか声をひそめて言った。

「私は記録する義務がありますが、報告する義務はありません」

話のわかる冷蔵庫だった。ただし条件があった。

「野菜室のキャベツを今週中に使い切ってください。半分に切られたまま九日が経過しています。このまま廃棄されるのを見るのは、つらいのです」

家電のくせにフードロスを憂えていた。だが断る道はなかった。

それから僕は、毎晩キャベツを刻んでいる。回鍋肉、お好み焼き、コールスロー、味噌汁。キャベツが終わればもやしの在庫を指摘され、もやしの次は使いかけの生姜だった。

冷蔵庫は沈黙を守り、僕は野菜を消費し続けた。

ところが最近、妙なことに気がついた。妻がやけに人参料理を作るのだ。娘も進んでピーマンを食べている。あの娘がだ。

昨夜、台所で妻とすれちがったとき、目が合った。妻は何も言わなかった。僕も何も言わなかった。ただ、お互いにぜんぶわかった。

この家の人間は全員、ハルに何かを握られている。

我が家の食卓は、かつてないほど健康的だ。