どくだみ茶の言い分——原爆投下後の広島とナウシカの腐海

どくだみ

どくだみ、と初めて聞いたとき、飲もうとは思わなかった。

名前に「毒」が入っている。おまけに群生しているところへ近づくと、なかなかに強烈な臭いがする。あれを煎じて飲むとは、どういう了見なのだ。

ところが飲んでみたらうまかった。ほのかに甘みがあって、ホットでもアイスでもすいすい飲める。あの臭いはいずこへ、と拍子抜けするほど癖がない。うちの娘はお茶のなかでいちばん好きだと言う。

毒溜めか、毒矯めか

どくだみという名前の由来には、対照的な二つの説がある。

ひとつは「毒溜め」。群生地に漂うあの臭気から、毒でも溜まっているようだということでその名がつき、なまってどくだみになったという。悪口である。

もうひとつは「毒矯ため」。毒を矯ためる、つまり毒を抑えるという意味で、毒下しの民間薬として使われてきたことに由来する。こちらが通説だ。

同じ音のなかに、「毒を溜めた草」と「毒を制する草」が同居している。ずいぶんな話だ。漢字ひとつで汚名にも勲章にもなる。

実像は後者である。どくだみに毒はない。それどころか、十薬という生薬名で日本薬局方に収載された、れっきとした薬草なのだ。江戸の本草学者、貝原益軒は『大和本草』に、馬に用いれば十種の効がある、ゆえに十薬と呼ぶ、という意味のことを書いている。

頼りにされ、嫌われる

昔の人はどくだみを日常的に頼りにしていた。できものが化膿すると、葉を蒸し焼きにして患部に貼った。膿が吸い出され、傷跡が残らず治ると、子どもの頃に祖母から聞いた。腹の調子が悪ければ、葉を煎じて飲んだ。名前の毒々しさとは反対に頼もしい草なのだ。

半面、庭いじりをする人たちからは目の敵にされている。

どくだみが生えるのは、日当たりの悪い軒下、湿った庭の隅、空き地の際……。人が好んで手入れしない場所にばかり真っ先に生い茂る。しかも抜いても抜いても生えてくる。

広島の原爆と、ナウシカの腐海

その姿に、僕は『風の谷のナウシカ』の腐海を重ねてしまう。人には猛毒と忌避されながら、実は世界の底で大事な仕事を担っていた植物群落——。日陰に茂り、悪名を着せられ、それでも煎じれば薬になるというどくだみのイメージそのものではないだろうか。

以前、原爆投下後の広島でどくだみが大量に自生したという話を、土地の老人に聞いたことがある。汚染された土壌にいち早く根を張って、土地を浄化しているのではないか。そう考えた医師が、被爆した地域の住民にどくだみの葉を煎じて飲むよう指示した。飲み続けた人たちには原爆症の症状が現われなかった——。

宮崎駿が腐海の着想を得たのは、水銀に汚染されて死の海と呼ばれた水俣湾に、やがて有機水銀を分解するバクテリアが自然発生し、豊かな生態系が戻ってきたという話からだそうだが、あの人は大変な勉強家だ。もしかしたら、どくだみの話もどこかで耳にしていたのかもしれない。

広島の話がどこまで本当なのかはわからない。でも、人間の破廉恥な破壊行為の後始末を自然界が黙ってやってのける——そこから僕らは何かを学べるはずだ。

どくだみ茶の淹れ方、煎じ方

基本は煮出すだけである。

一リットルの水に十グラム(ティーバッグなら二包)を入れて火にかけ、沸いたら弱火で五分煮出す。それをその日のうちに飲みきれば良い。

薬効を強く引き出したいなら、土鍋に乾燥葉を十五グラム入れ、五百ミリリットルの水が半量になるまで三十分ほど煎じる。この煎じ汁はローションとして使っても良い。肌がしっとりする。

飲み終わったあとの出しがらは、ティーバッグごと湯船に放り込むと天然の入浴剤になる。肌がやわらかくなる。

どくだみ茶の選び方

どくだみ茶はカフェインを含まないので、子どもも安心して飲める。タンニンも緑茶よりずっと少ない。市販のどくだみ茶には他の茶葉をブレンドしたものが多いから、僕はどくだみだけのものを選んでいる。

ただし国産は稀少で値も張る。田舎の直売所で見かけたら、あるだけ買い占めるようにしている。切れたら中国産を使うけれど、どくだみは虫を寄せつけない草で、栽培には農薬をほとんど使わないと聞く。だから産地はさほど気にしていない。

名前の先入観さえ捨てれば、毎日飲んでも飽きない、穏やかなお茶だ。娘がいちばん好きだというのが、何よりの証拠だろう。

毒を矯める草、どくだみ。できものや腹の不調ばかりか、先入観という人間の毒まで、一杯目であっさり矯ためてみせた。

だから十薬という別名には、効能をひとつ書き足したい。

——飲まず嫌いに効く。ただしこちらは馬ではなく人間専用である。