子どもの脳は、食卓でつくられる——青魚を食べさせ続けた十年間の話

サバの身をほぐすパパ

「さて、DHAってなに酸だっけ?」

食卓でそう聞くと、娘はしばらく黙って、それからこう答えました。

「……わからない」

「だろ。でもこのサバを食べると、次は答えられるようになるんだ」

娘はそのとき、半信半疑の顔をしていました。でもその夜のサバ味噌をちゃんと食べた。それで十分でした。

ちなみにDHAとはドコサヘキサエン酸、EPAとはエイコサペンタエン酸という名前です。妻に「よく覚えてるね」といわれましたが、わたしもうろ覚え(笑)。でも娘に「食べると頭がよくなる」といい続けた結果、小学校高学年のころには自分から青魚を求めるようになりました。

本人も体で感じたのだと思います。あの魚を食べると、なんとなく頭が冴えるな、と。

実際に学業の成績もよくなっていきました。

はやま

プラセボ効果か暗示か、はたまたわたしの言霊か——。まあ、なんでもいいのです。食べてくれるなら(笑)

子どもの脳は、油でできている

脳の重量の約60パーセントは脂質でできているといわれています。その脂質のなかでも、DHA(ドコサヘキサエン酸)は脳や神経の構成成分としてとくに重要とされています。

DHA・EPAはオメガ3脂肪酸の一種です。体にとって欠かせない脂肪酸でありながら、体内でほとんど産生できないため、食べ物からとるしかない。だから「必須脂肪酸」と呼ばれます。

子どもの脳は、乳幼児期から学童期にかけて急速に発達するとされています。この時期に何を食べるかは、脳の材料を何で補うかという話。わたしが保育園のころから青魚にこだわって食べさせてきたのは、そういう理由からです。

はやま

むずかしく考えないでくださいね。「脳は油でできている。だからいい油を食べさせよう」、それだけでいいです。

なぜ「青魚」に絞るのか

DHA・EPAは、青魚にとくに多く含まれるとされています。イワシ、アジ、サバ、サンマ——これがわが家の基本の四種です。

サーモン(鮭)は娘が昔から好きなので、これも時ときどき食卓に乗せます。でも軸はあくまで青魚。理由は単純です。オメガ3の含有量が多いからです。

白身魚もおいしいし栄養もある。ただ、子どもの脳と体のことを考えて、わたしは週に最低一回か二回、青魚を食べさせることを優先してきました。

「見た目がいや」との戦い

子どもというのは、知らない食べ物の見た目をまず嫌います。魚はその筆頭。目がある。骨がある。皮がある。焼くとにおいがする。子どもにとって、魚はハードルの高い食べ物です。

娘も例外ではありませんでした。とくに丸もの(一匹まるごと)の魚が苦手で、出すと顔をしかめた。それで気づきました。頭を落としてから焼けばいい、と。

見た目の問題が解決したら、次は味の問題です。青魚の臭みが苦手な子どもは多い。これには生姜が効きます。時にはにんにく。下処理の段階で使うか、仕上げに効かせるか——。料理によって使い分けながら、とにかくおいしく食べられるように工夫し続けました。

わが家の定番はこんなふうになっていきました。

アジは魚焼きグリルで焼くか、フライ。イワシはフライ、かば焼き、たまに煮付け。サンマは焼く。サバは味噌煮。書いてみると普通ですが(笑)

はやま

サバ味噌は子どもが食べやすい。甘辛い味付けが魚の臭みを消してくれるし、ごはんが進む。わが家の鉄板です。ちなみに最初はお鍋でつくっていましたが、どうしても身が硬くなる。ある日、SNSで山本ゆりさんのレンチンレシピが流れてきたので、試してみました。すると身がやわらかくて、しかも美味。家族にも好評。調味料の量も少なくてすむし、お手軽。というわけで、いまはほぼレンチンです。

【作り方】簡単です。耐熱容器に砂糖、酒、みりん、味噌を大さじ1、水を大さじ2、生姜の薄切りを入れてよく混ぜる。サバ2切れを皮目を下にして入れ、スプーンで汁をすくって上からかける。ふんわりとラップをして、600Wで3分チン。粗熱がとれたら裏返して、今度はぴたっとラップをして冷めるまで待つ。これだけ。お弁当にも入れられます。お試しください。

日本人はなぜ魚を食べてきたのか

日本は四方を海に囲まれた島国です。縄文時代から、日本人は魚介を食べてきた。貝塚がその証拠で、全国各地で発見されていますね。

魚は腐りやすい。だから先人たちは知恵を絞って保存する方法を考えてきた。塩漬け、糠漬け、味噌漬け、干物——。魚と発酵食品の組み合わせが、日本の食文化を豊かにしてきたといっても過言ではないでしょう。

魚食文化は日本人の体をつくってきました。「魚を食べると頭がよくなる」という言い伝えは、長い時間をかけて蓄積された経験則が言葉になったものかもしれません。

魚を焼くにおいは、千年続く生活のにおい

実家にいたころ、二階の自室まで魚の焼けるにおい、煮つけるにおいが漂ってきた記憶があります。夕方、そのにおいが階段をのぼってくると、お腹がぐうと鳴った。

いまでも魚を調理するにおいを嗅ぐと、あの家の台所を思い出します。においには記憶を直接刺激する働きがある。魚のにおいはその最たるものです。

娘もいつかそう感じる日が来るかもしれません。大きくなって、どこか遠くで暮らすようになったとき、魚を焼くにおいでふっとこの家の台所を思い出す——。そういう記憶を、食卓は静かに積み重ねています。

はやま

魚を焼くにおいは、千年続く生活のにおいだと思います。今日もどこかの台所で、同じにおいが立ちのぼっている。

骨をよける、という共同作業

魚には骨があります。そのまま食べさせると喉に刺さることがありますので、取り除いてあげないといけない。でもわたしはそれを、面倒とは思いません。

小さいころ、母や祖母に骨をよけてもらいながら魚を食べました。ほぐしてもらって、「ここ食べていいよ」といわれた身をほおばった。娘にも同じことをしました。

骨をよける、身をほぐしてあげる——この小さな手間が、食卓の距離を縮めます。「おいしいね」といいあう。魚料理は手間がかかるぶん、家族の会話が増える気がします。

サバ缶は、忙しいママの味方

生魚を毎回調理するのは大変です。そういうときはサバ缶かイワシ缶でいい。DHA・EPAの含有量は生のサバやイワシと比較しても遜色ありません。

わが家でよくやるのはこのあたり。

味噌汁——汁ごと入れるだけで、いい出汁が出ます。
カレー——サバやイワシだけだと少し物足りないので、鶏肉か豚肉と合わせると子どもが喜びます。
パスタ——ニンニクと合わせてオイルで。
炊き込みごはん——生姜をたっぷり入れるとくさみが消えて、香りがいい。

どれも工程が少なく、平日の夕食にも無理なく出せます。「今日は魚の気分じゃない」という日でも、缶を一個あけるだけでオメガ3が食卓に乗る。

はやま

サバ缶かイワシ缶は常備しておくといいですよ。うちはイワシ缶を箱買いしています(笑)

10年にわたる種まきが実を結んだ日

保育園のころから青魚を出し続けて、小学校高学年のある日、娘が自分から「イワシが食べたい」といいました。

内心、ガッツポーズ。

脳に効くからかもしれないし、ただ単においしくなったからかもしれない。どちらでもいいのです。食べてくれるなら。

子どもの脳と体は、毎日の食卓でつくられます。週に一度か二度、青魚を食卓に出す。それで十分です。

はやま

2008年、UCLAのゴメス・ピニリャ博士は「脳は食べ物で変わる」という論文を発表しました。その後の研究でも、青魚のDHAが記憶や学習に深く関わることが何度も示されています。わたしが娘に青魚を食べさせ続けてきたのは、科学的にも正しかったようです(笑)