舌はうそをつかない——妻の更年期と今日の一皿のちから

玄米のお弁当

妻から、昼どきにメッセージが来る。

——いつもヘルシーでおいしいお弁当をありがとう。

うれしい一言だ。ただ、加工食品を入れた日には来ない。

舌はうそをつかない。

その妻が数年前、更年期に差しかかった。周りの同年代の女性たちは、のぼせ、いらいら、不眠、動悸、冷えなど、それぞれに何かしら抱えているらしい。ところが妻にはこれといった症状が出ていない。健康診断でも、どこも問題なしとお墨つきをもらってきた。

関係があるかどうか証明はできない。それでも僕は、毎日の食卓のおかげではないかと思っている。

更年期は突然やってくるわけではない

更年期の不調は、女性ホルモンの分泌が落ちて、自律神経のバランスが乱れることで起きる。深刻に悩む人も少なくない。

ただ、その出方にははっきりと個人差がある。その差は、それまでの食生活と無縁ではない。長年お世話になっている東城百合子さんの本にも、不自然な食生活やストレスが更年期の不調を悪化させる、と書かれていた。

更年期はある日突然やってくるわけではない。日々の積み重ねの、その先にある。だとすれば、いまの食卓を整えておくことは、来たるべき変化へのささやかな備えになる。

といっても、我が家の食卓は地味なものだ。

主食は玄米か麦ご飯。ぬか漬けを毎日食べ、白砂糖は使わず、加工食品もめったに口にしない。にんじんをよく食べていて、弁当には細切りにして塩だけで炒めたしりしりをよく詰める。

特別なことはしていない。旬の本物の食材を調理して、シンプルに食べる。ただそれを続けてきただけだ。

たまに妻がのぼせや火照りを訴える日には、梅しょう番茶を出す。番茶に梅干しをひとつ、生姜と醤油を少し。動悸がするといえば、番茶に塩をひとつまみ落とす。どちらもたいした手当てではない。それでも飲むと体がじんわり落ち着くのだと妻は言う。

更年期に食卓でできること

すでに症状が出ている場合、食事と手当てを組み合わせるアプローチが助けになることがある。東城さんの本とマクロビの知恵から、実践しやすいものをいくつか挙げておこう。

主食を玄米に。玄米の胚芽にはビタミンEが豊富に含まれており、ホルモンバランスを整えるのに役立つといわれる。いきなり玄米が難しければ、麦ご飯や五分づき米から始めるのも良い。

緑黄色野菜と海藻を毎日。にんじん、小松菜、ひじき、わかめ——。更年期に不足しがちなビタミンとミネラルを補うことで、骨粗しょう症や貧血を予防。血液の流れが良くなると、不快な症状もやわらぐ。

葛を取り入れる。葛には女性ホルモンのような働きをする成分が含まれているという。葛湯や葛練りで、ほっとする一杯を。

避けるべきもの。白砂糖、精白食品、加工食品、動物性食品、油もの——。こうしたものは不調を悪化させるため、なるべくひかえると良い。ホルモンバランスを乱す原因にもなる。すべてやめる必要はないが、意識しておくと食生活は自然と変わるものだ。

症状が出たときの手当て

食事と並行して、体を外から整える手もある。

ホットフラッシュ(のぼせ・ほてり・多汗)には梅しょう番茶。ホットフラッシュで汗をかくと塩分が失われる。塩気のある梅しょう番茶(作り方は文末に)で、塩分とミネラルが補給できる。体がすっと楽になる。

動悸には塩番茶。番茶に塩をひとつまみ入れて飲むだけ。心臓の働きを落ち着かせてくれるという。

頭痛にはしょうが油かつばき油。これを患部にすり込んで血行を促進すると良い。

いらいらにはりんごジュース。マクロビでは、りんごやみかんなどの果物は強い陰性とされ、カリウムやビタミンC、有機酸が体をアルカリ性に保ち、汚れた血液を中和して心を鎮めてくれるとされている。

大根干葉ひばの腰湯。干した大根の葉をお湯に入れた腰湯は、下半身を芯から温め、婦人科系の不調をやわらげるとされる。足の冷えがひどい方にもおすすめ。

準備は、もう始められる

更年期はいつかかならずやってくる。身構えたところで来るものは来る。だから僕にできるのは、今日の一皿を淡々と作ることくらいだ。

さっきも妻からメッセージが来た。

——おいしかった、ありがとう。

やはり、加工食品を入れた日には来ないのだけれど。

 

のぼせや火照りの日に、我が家で出す一杯を。マクロビや自然療法で古くから伝わる手当てで、材料はどれも台所にあるものばかり。

  • 茶は番茶。煎茶でもほうじ茶でもなく、番茶。できれば三年番茶——三年ほど寝かせた番茶があれば、味も口当たりもまろやかになる。なければふつうの番茶でいい。カフェインが少なく、体にやさしいのが、このお茶の取り柄。
  • 梅干しは本物を。梅と塩、もしくは梅と塩と紫蘇だけで漬けた、酸っぱい梅干しがいい。はちみつ入りの甘いものや調味液に漬けたものでは、この一杯の芯が抜けてしまう。
  • 生姜と醤油を少しだけ。生姜はすりおろしを少々。チューブのものでもかまわない。醤油は本醸造のものをほんのひと垂らし。入れすぎると塩辛くなる。あくまで少しだけ。
  • 湯呑みに梅干しをひとつ入れ、箸で軽くつぶす。そこへ醤油を垂らし、生姜おろしを加える。あとは熱い番茶を注いで、よく混ぜるだけ。梅干しの果肉をほぐしながら飲むと、腹の底から温まってくる。

冷えた日、疲れた日、なんとなく元気の出ない日に。効能を期待するというより、ほっとするために飲む一杯だ。台所にある、ささやかなお守りのようなものである。