ランクルの社長に教わった「身土不二」——しょうゆの選び方と、発酵の話

しょうゆ

食に関する取材旅行で熊本をまわっていたことがあります。その際、地元で有名なお豆腐屋さんに取材しました。

話が終わり、高そうなフル装備のランドクルーザーでホテルまで送ってもらう道すがら、その社長がふとこう言いました。

「身土不二って言葉、知ってますか」

知らなかったので聞き返しました。仏教に由来する言葉で、「人間の体とその土地は切り離せない」という意味だそうです。

地産地消という言葉、最近よく耳にします。もはや農協のキャッチコピーのように使われていて、どこか軽くなっている気がしますが、身土不二はその原型というか、もっと深い。人間の体は食べたものでできています。だからその土地の水と土と気候で育ったものが、体にいちばんなじむ——。

その言葉はずっと頭に残っていました。それがある日、お店でしょうゆを選んでいる際に腑に落ちたのです。

しょうゆは、発酵食品です

しょうゆは大豆と小麦と塩を原料に、麹菌・酵母・乳酸菌の力を借りて発酵・熟成させてつくる、日本の伝統発酵食品です。その歴史は奈良時代にまでさかのぼり、江戸時代にはいまのしょうゆの原型が完成しました。

本来の製法では、大豆と小麦を合わせた「もろみ」を大きな木桶に仕込み、1年から2年かけてゆっくり熟成させます。この間、微生物たちが大豆のたんぱく質をアミノ酸に、小麦のでんぷんを糖に分解していく。あの深い旨味と香りは、こうした時間の積み重ねから生まれます。

ところがスーパーの棚に並ぶしょうゆの多くは、この時間を大幅に短縮してつくられています。

「本醸造」と「混合醸造」と「混合」

しょうゆのラベルには「製造方法」が表示されています。三種類あります。

本醸造——大豆と小麦と塩麹だけで発酵・熟成させる、伝統的な製法。時間はかかりますが、自然な旨味とコクが生まれます。

混合醸造——本醸造のもろみに、アミノ酸液(たんぱく質を化学的に分解したもの)を加えて熟成させます。旨味を人工的に補う方法です。

混合——本醸造または混合醸造のしょうゆに、アミノ酸液を直接混ぜ合わせたもの。発酵とは呼べません。

値段の安いしょうゆの多くは混合醸造か混合です。旨味の強さはありますが、発酵食品としての恩恵はほとんど期待できません。

原材料を、一度だけ見てください

本醸造のしょうゆを選ぶのは、難しくありません。原材料欄を一度確認するだけです。

「大豆・小麦・食塩」——こう書いてあるのが本醸造です。

「アミノ酸液」「調味料(アミノ酸等)」が入っているものは本醸造ではありません。これだけ覚えておけば十分です。

価格差はひと瓶あたり数百円程度。毎日家族の食卓に使うものだから、ここだけちょっと気にしてみてください。

身土不二の話に戻ります

しょうゆを選ぶとき、もうひとつ意識していることがあります。国産の大豆と小麦を使ったもの、あるいは地元の蔵が丹精込めてつくったものにするということです。

あのランクルの社長の言葉を思い出すからです。人間の体と土地は切り離せない。その土地の水と気候で育った素材でつくられたものが、体にいちばんなじむ。

もっとも関西から東京に出てきて20年以上経つので、いまのわたしの体はほとんど関東の食べ物でできているかもしれませんが。まあ、そういう細かいことは気にしないということで(笑)。

熊本には、阿蘇山があります。地面の下には火山灰が降り積もった層があり、雨水はそこで磨かれ、きわめて清澄な伏流水として地表に湧き出してきます。熊本市はその水を水道水に使っています。

あのお豆腐屋さんの社長は、「この水がなければ、うちの豆腐はつくれない」と話していました。そういう話を聞くと、食べ物と土地のつながりというのは、やはり切っても切れないものなのだなあと感じますね。

はやま

しょうゆは毎日使うものです。こだわりすぎる必要はありませんが、でもちょっとだけ気にしてみてください。原材料を確認して、本醸造のものを選ぶ。それだけで、いつもの料理がひと味もふた味も変わってきます。