キャベツの葉を頭にのせた夜。——台所にある「冷やす」知恵と、古い手当ての民俗学

キャベツがひとつ

ある夜のリビング。ソファでくつろぐ僕の頭の上には、キャベツの葉が一枚——。

ガラっと音がした。娘が浴室から出てきたのだ。僕を見て一瞬のけぞる。「パパ、何……してるの?」まるで不審者を見るような目つきである。

なるほど。はたから見れば、なかなかにシュールな光景なのかもしれない。

もちろん僕は、ふざけているわけではない。いたって真面目に、頭と心の「手当て」をしていたのだ。娘にはこういった。

「疳の虫を鎮めて、ゆっくり寝るためだよ」

欧州のおばあちゃんの知恵袋

僕がやっていたのは、ヨーロッパ——とくにフランスやドイツなどで、昔から愛されてきた「キャベツ湿布(Cabbage Poultice)」という伝統的な自然療法だ。

ヨーロッパの田舎のおばあちゃんたちは、子どもが高熱を出したとき、授乳中の母親の胸が張って痛むとき、関節が熱をもったとき、薬箱を開ける前に台所へ走り、キャベツの外葉をむしって肌にあてていたそうだ。

キャベツには非常に高い消炎作用と、熱を穏やかに吸収してくれる力があると、経験的に知っていたからだという。

現代の僕たちは、スマホの画面を凝視し、夜遅くまで仕事のこと考え、脳をフル稼働させている。脳は常時、オーバーヒートしている。これは東洋医学でいうと「上気(じょうき)」、つまりエネルギーと熱が頭に集中していて、チカチカ点滅している状態。

そこに、キャベツである。冷蔵庫で冷えた、みずみずしい葉をあてると、じわっと熱が引く。なんともいえず心地いいのだ。「熱さまなんとか」にはないやさしさがある。

東洋の、身近な野菜を使う「熱とり」

野菜を使う手当ては、日本の伝統的な民間療法でもいろいろとある。

たとえば、ヨーロッパと同じように生キャベツを使う手当て。キャベツの「体を冷やす作用(陰性の力)」を利用して、興奮して眠れない夜に枕に敷くのだ。

あるいは鼻血が出たときに後頭部にキャベツの外葉を当てる、という手当て法もある。

キャベツだけでなく、大根やかぶ、小松菜などの青い葉を頭や額に当てる「青菜の熱とり」というのもよく知られている。

もう少し強力な手当てになると、豆腐湿布がある。水切りした豆腐に小麦粉とおろし生姜を混ぜて額に貼る。40度近い高熱が出たときに、頭部の熱を力強く吸い出してくれるという。

偏頭痛や自律神経の乱れからくる頭痛には、開いた梅干しをこめかみにぺたりと貼る「梅干し湿布」が用いられてきた。梅の塩分(陽性)が痛みを和らげ、クエン酸が患部の熱を分解してくれるとか。

どれもこれも、風呂上がりの娘をぎょっとさせることになるだろうが、医薬品のような副作用の心配がなく、手軽で安心な家庭の手当てといえる。

はやま

変わり種を一つご紹介しておきます。イライラして眠れない夜に、すりおろした馬鈴薯や、刻んだ玉ねぎを枕元に置くだけで、気持ちが整います。揮発成分に気持ちをリラックスさせる働きがあるからだとか。ただし涙もろくなります(笑)

「中庸」に戻す、古くて新しい選択

西洋医学を否定するつもりは気は毛頭ない。本当に辛いときは医師の力を借りるのが一番合理的である。

ただ「薬を飲むほどではないが、なんとなく頭が重い」「イライラして眠れない」という自覚の初期の段階で、「台所に向かう」という選択肢があることも知っておいて損はない。

身近な食材の力を借りて、陰や陽に傾きすぎた体のバランスを中庸に引き戻す。僕たちのご先祖が何世代にもわたり試行錯誤して見つけだした、ありがたい生活の知恵である。

現代人の頭は毎日、情報の洪水にさらされて、気づかないうちに熱を帯びている。

だから今夜、もし布団のなかで目が冴えてしまったら、冷蔵庫を開けて、キャベツの葉を一枚めくってみてほしい。頭の上の心地よい清涼感が、がんばりすぎるあなたを、そっと癒してくれるはずだ。

エジソンは「寝るのは馬鹿だ。みんな寝すぎだ。私は死んだあとたっぷり寝る」と豪語したらしいが、僕は馬鹿でもいいから今夜はゆっくり眠りたい。