「子どもが野菜を食べてくれない」——食卓アドバイザーはやまに相談してみたら

野菜と子供

「子どもが野菜を全然食べてくれなくて。どうすればいいんでしょう……」

先日、3歳のお子さんをもつ親御さんから、こんなご相談をいただきました。ほうれん草もにんじんもブロッコリーも、テーブルに出しただけで「いらない」と首を横に振るそうです。

少し、うちの話をさせてください。

うちの娘は、小さいころから野菜をわりとよく食べていました。春菊とゴーヤはダメでしたけれど(笑)。わたしが何か特別な工夫をしたからではなく、ひとつ「やめた」ことがあったからだと、いま振り返って思うのです。

はやま

保育園のころから「この野菜はね、君の体の中でこういう仕事をしてるんだよ」という話をよくしていました。それが効いたかどうかはわかりません。でも食卓が「戦場」でなかったことは、たぶん大きかったと思う。

今日は、そのことを中心にお話しします。

「食べなさい」が、食卓を戦場にする

わたしの実家ではその昔、苦手なものも最後まで食べ終わらないと食卓を立ってはいけないというルールがありました。家族はとっくに食べ終わって居間からテレビを見て笑う声が聞こえてくる。自分だけが、薄暗い食卓にひとり取り残される。

1時間、2時間。冷めた料理の前で、ただ座っていました。

何度か、こっそりトイレに流したことがあります。そのたびに罪悪感に押しつぶされそうになりました。作ってくれた母への罪悪感、食べ物を捨ててしまった罪悪感、自分はなんて悪い子なんだ——そういう感情がごちゃまぜになって、胸のあたりがずっとざわざわしていました。

親は、しつけか教育の一環だと思っていたはずです。でもそれに反し、わたしの心には食べ物への恐怖心と、食卓への苦手意識が育っていきました。

娘が通っていた保育園でもまったく同じことをしていました。みんなが給食を食べ終わって掃除が始まっても、食べ終わっていない子は廊下に机といすを出されて、食べ終わるまで座っている。娘から聞いたとき、胸が痛みました。昔の自分を思い出したからです。たぶん。

はやま

当時苦手だった食べ物はいまだに見るだけで複雑な気分になります(笑) ただそういう経験があったおかげで、娘に嫌いなものを無理強いせずにすみました。栄養なんて食べられるものだけで十分に摂れます。それより食卓が「楽しい場所」であることのほうが、ずっと大事ではないでしょうか。

「好き嫌いなく食べさせなければ」という親の焦りは、とても自然な感情です。でも、強制は逆効果になることが多い。食べさせようとすればするほど、子どもはその食べ物を「嫌なもの」として記憶してしまう。

野菜が「怖い」のは、子どもの本能

実は、子どもが新しい食べ物を警戒するのには、理由があります。

「ネオフォビア(新奇食物恐怖)」と呼ばれる反応で、見慣れない食べ物を口に入れることへの本能的な抵抗感のことです。2歳から6歳ごろにピークを迎えるとされていて、これはもともと、野生環境で子どもが毒のある植物を誤って食べてしまわないための、進化の知恵でもあります。

つまり、子どもが野菜を嫌がるのは、育て方のせいでも、子どものせいでもありません。それがふつうなのです。

この時期を無理に押し切ろうとすると、拒否反応がより強くなる場合があります。反対に、強要せず食卓に出し続けていると、少しずつ「これは安全なものだ」と認識が変わっていく。食べるかどうかより、食卓に「いつもある」という安心感を与えるのが先なのです。

親がおいしそうに食べる

子どもは、親のことを驚くほどよく見ています。

わたしが「これおいしいなあ」と言いながら食べていると、娘はじっとこちらを見る。しばらくして「ちょっとちょうだい」と言ってくる。食べてみて「あ、おいしい」となることが、うちでは何度もありました。ナスが苦手だった娘が、米粉をまぶしてあげ焼きにしたものを一口食べてハマったのも、たぶんそういう流れでした。いまでは食卓に出したらあっという間になくなります(笑)。

「食べなさい」と言ったことは、一度もありません。

親が食べているものを、子どもは食べたがります。それは食卓を囲むことへの安心感であり、親への信頼です。難しい食育論より、毎晩の食卓でパパやママがおいしそうに食べているという事実のほうが、何百倍も強い。

はやま

魚が苦手な娘のために、調理法をいろいろ試したりはしました。煮魚が嫌い。それなら焼き魚は? ダメか。じゃあ酒蒸しは? ムニエルは? 「おいしい」「よし!」。こんな感じ(笑)。エビカニ貝は全滅でしたが、まあそれはそれでいい。体質に合わないケースもありますからね。食べられるものが少しずつでも増えていけばいい。

「濃い味」が、子どもの味覚を狂わせる

もうひとつ、気をつけていたことがあります。

おやつに、スナック菓子を与えないようにしていました。ポテトチップスのような、強い塩味と旨みのあるものです。

理由は単純で、素材の自然な旨みとはまったく異なる「人工的な強さ」を持っているから。子どもの繊細な味覚が、強い刺激に慣れてしまうと、野菜の持つほのかな甘みやかすかな旨みが感じにくくなっていく。野菜がおいしくないのではなく、味がわからなくなってしまう。

代わりに、うちでは素朴なおやつを与えていました。かりんとう、せんべい、蒸したさつまいも、お団子、自家製クッキー。地味ですが、飽きない。そのうち娘も「これがおいしい」とわかってくれるようになりました。

味覚は、育てられます。早ければ早いほど、素材の味がわかる舌になっていく。

はやま
はやま

誤解のないように書いておきますが、娘はスナック菓子をまったく食べずに育ったわけではありません。保育園や学童ではみんなといっしょに出されたものを食べていました。

どうしても食べさせたいなら——試してみてほしいこと

「それでも、なんとかして野菜を食べさせたい」というときのために、実際にうちでやっていたことをいくつかご紹介します。

にんじんとりんごのジュース

これは本当におすすめです。スロージューサーかミキサーで作る、にんじんとりんごのジュース。野菜ジュースという感じがまるでなくて、甘くてフルーティー。娘はごくごく飲んでいました。

にんじんには人間の体に必要な約30種のビタミンと約100種のミネラルのうちの多くが含まれ、ベータカロテンの含有量は野菜のなかでもトップクラス。りんごはビタミン、ミネラル、腸内の乳酸菌を育てるオリゴ糖まで含む優等生です。この二つを合わせたジュースは、朝の栄養補給としても大変すぐれた一杯になります。

スロージューサーで作ると搾りかすが出ますが、捨てるのはもったいない。蒸しパンに混ぜると、ほんのり甘くておいしいおやつになります。娘は喜んで食べていました。

野菜たっぷりのスープ

わが家では月に2回ほど、ボルシチ風のスープを作ります。圧力鍋に、白菜、にんじん、大根、玉ねぎ、ピーマン、なすなどの野菜をたっぷりと入れて、手羽先か手羽元といっしょに水とトマトジュースで煮込むだけ。

圧力鍋で煮込むので野菜がとろとろになり、舌触りもなめらか。野菜の癖がほとんど消えるから、野菜が苦手な子でも案外食べてくれます。スープに溶け出した野菜の旨みも丸ごと摂れるので、栄養面でも申し分ない。

具体的なレシピはまた別の機会に書きますが、要するに「野菜と肉を圧力鍋に入れてトマトジュースで煮るだけ」です。難しくはありません。

ぬか漬け、という奥の手

意外に見落とされがちですが、ぬか漬けは子どもに野菜を食べさせるのにうってつけです。きゅうり、にんじん、大根をぬか床に漬けると、乳酸菌の働きで栄養価がぐっと高まり、食べやすい酸味と塩味がつく。生野菜が苦手な子でも「お漬け物」なら食べてくれることがあります。

具だくさんの味噌汁

一汁一菜という考え方をご存じでしょうか。ご飯と、お漬物と具だくさんの味噌汁だけ。そっけなく見えますが、この味噌汁に食べてほしい野菜を入れてしまえばいい。にんじん、ほうれん草、ごぼう、豆腐、油揚げ……なんでも入れていいのです。柔らかく煮えた野菜は食べやすいし、味噌の旨みが野菜の味を包んでくれる。

そしてもうひとつ、子どもが味噌汁を好きになる理由として見落とされがちなのが出汁です。顆粒だしと煮干しやかつお節、昆布からとった出汁では、やさしさがまるで違います。

子どもが「野菜嫌い」でも、お味噌汁なら飲んでくれることは多いものです。

食べられるものを食べていれば、それで十分

野菜を一切受け付けない場合でも、玄米ごはんと味噌汁、ぬか漬けがあれば、必要な栄養はかなりカバーできます。日本の伝統食とはそういうものです。「野菜を食べさせなければ」と追い詰められる必要はありません。

子どもが自分ちの食卓が大好きで、食べることを楽しんでいるなら、それで十分ではないでしょうか。

子どもは、親の背中を見て育ちます。食卓で親が楽しそうにおいしいものを食べていれば、いつかきっと、一口食べてみようという気持ちが芽生える。その一口が、次の扉を開きます。

焦らず、怒らず、ただおいしそうに食べていてください。それが、いちばんの食育です。

はやま

うちの娘、春菊とゴーヤはいまだに食べません(笑)。エビカニ貝も。でも、それでいい。わたしだって好き嫌いのひとつやふたつはある。苦手なものがある人間のほうが親しみやすくていいじゃないですか。