眠れない夜は、足が冷えている——頭寒足熱という、古くて正しい不眠のセルフケア

布団から出ているつま先

三年勤めた商社を辞めた理由のひとつは「朝ゆっくり寝ていたいから」でした。当時はとても口に出せなかったけれど、いまなら正直に言えます。

休日は昼過ぎまで寝ていることもあって、母親にはよくあきれられました。でも最近、ある追跡調査を知ってにやりとしました。昼寝をたっぷりする子とそうでない子を長期追跡したところ、メンタルの安定ぶりや自殺率において有意な差が出たというのです。

昼寝は、正義でした。

はやま

お母さん、僕が正しかったんだよ。

それでも、眠れない夜はある

わたしのようなよく寝る人間にも、眠れない夜はあります。交感神経が立っているとき——何かが気になっているとき、仕事の締め切りが迫っているとき、ぐるぐると頭が回り続けるとき、布団に入っても目がらんらんと冴えてしまう。

そういうとき、自分の体を観察するといつも同じことに気づきます。頭が熱くて、足先が冷たい。目は疲れているのに思考が止まらない。頭のなかでヒートアップした何かが、勝手に動きまわっているような感覚。

単なる気のせいではなく、体が出しているサインだと最近になってようやくわかりました。

お酒という手——正直な話

正直に言うと、眠れない夜の常套手段はお酒です。

アルコールが交感神経を刺激し、睡眠の質を下げることは知っています。でも酔えば眠れる。だから飲む。「わかってるけどやめられない」というのは、きっとわたしだけではないはず。

もちろん翌朝、すっきり目覚められないのがそのせいだということもわかっています。お酒は「緊急手段」であって「解決策」ではない。根っこにある問題——交感神経が立ちすぎている状態を整えないと、同じ夜が続きます。

「頭寒足熱」という、身体の感覚知

頭寒足熱

東洋医学に「頭寒足熱」という言葉があります。頭が冷たく、足は温かい——これが健康な状態だという考え方です。「頭寒足熱に医者いらず」ともいう。

おもしろいことに、わたし自身の体感ともぴたりと一致します。

眠れない夜は、だいたい足が冷えている。そして頭や顔がなんとなく熱い。反対に、体調のいい日は真冬でも足がじんわり温かい。頭はすっきり冴えている。

わたしの不眠は、要するに「頭熱足寒」——頭寒足熱の逆の状態だったのだと思います。熱が体の上半身に滞留し、下半身に届いていない。冷えの話でも書きましたが、血の巡りと体温の分布は、眠りとも深くつながっているのです。

不眠には「タイプ」がある

眠れない理由をひとくくりにしてしまうと、対策がずれてしまいます。マクロビオティックの視点では、不眠は大きく2つのタイプに分けられるからです。自分がどちらに近いか考えながら読んでみてください。

不眠のタイプ

疲れているのに頭が冴えてしまう(陽性の不眠)

仕事や運動のしすぎ、あるいは動物性食品の食べすぎによって、頭部にエネルギーと熱が集中した状態。「クタクタなのに眠れない」「考えが止まらない」「頭がなんとなく熱い感じがする」という人はこのタイプ。

対策の基本は「頭の熱を鎮める」ことです。しいたけスープを飲む、夕食の量を少し減らす。

変わり種では、刻んだたまねぎや長ねぎを枕元に置くというものもあります。揮発成分(硫化アリル)が陰性の作用をもち、神経をじんわりリラックスさせるとか。「そんなことで」と思うかもしれませんが、試した人の多くが「なんだか眠れた」と言います。翌朝、布団がねぎ臭くなっても責任は取れませんが(笑)。

細かいことが気になって眠れない(陰性の不眠)

甘いもの・果物・水分・アルコールの摂りすぎによって、神経が「ゆるみすぎた」状態。不安がぐるぐる止まらない、些細なことが頭から離れないという人はこちらのタイプ。

塩気とカルシウムで体を引き締める方向に整えることが有効です。ごま塩番茶(三年番茶にごま塩を少量溶かしたもの)か、ごま塩をそのまま少量舐める。

ヤンノー(あずきコーヒー)にごま塩を加えたものも効くとされています。あずきは腎臓の働きを助け、ごま塩のカルシウムが精神を安定させます。これを寝る前に温めて飲む。見た目も味も地味ですが、体が落ち着く飲み物です。

体の内側から整える、いくつかの方法

不眠対策いろいろ

お酒に頼らなくても眠れる方法を、体験ベースでいくつか挙げてみます。

頭部の温湿布

「頭を冷やせ」というのが頭寒足熱の基本です。そこで、熱を持った頭をあえて温湿布で温めることで血のめぐりをよくし、熱をうまく逃がしてあげるという手当てがあります。寝る前に蒸しタオルを頭にあてて数分——。蒸しタオルの記事でも書きましたが、温めることで副交感神経が優位になり、ほどなくリラックスできます。

ねぎみそ湯

豆みそを表面が少し焦げる程度に直火で焼き、刻んだ長ねぎと一緒にお湯を注ぐだけ。軽い風邪のひきはじめにも効くと言われていますが、不眠にもいい。ねぎの揮発成分と味噌の塩気が交感神経を落ち着かせ、体をじんわりと温めてくれます。

生姜の足湯

寝る直前に、すりおろした生姜を入れた熱めのお湯で足を10〜15分浸します。これが思いのほかよく効く。全身がじんわりと温まり、頭がすっと静かになる感覚があります。まさに「頭寒足熱」を外から実現する手当て。生姜チューブでも大丈夫。ハードルも低い。

梅しょう番茶

体を内側から温め、血液の循環を整える飲み物です。冷えからくる不眠にはとくによく合います。作り方と飲み方はこちらの記事にまとめています。ぜひ参考にしてください。

静かな音楽

シガー・ロス——これは完全に個人的な処方(笑)。静かで言語情報の少ない音楽は、ぐるぐる思考を止めるのに確実に効きます。歌詞があると脳が言語処理を始めてしまうので、できるだけ言葉のないものがいい。眠りに落ちるというより、音楽に乗って深い海の底に沈んでいくような感覚です。

瞑想

3分から始める瞑想の記事でも書きましたが、呼吸を意識するだけで副交感神経が優位になります。眠れない夜に布団のなかでやってみると、思いのほか早く落ちていけます。「うまくやろう」と思わなくても大丈夫。ただ、吐く息を少し長くする。まずはそれだけ意識してみてください。

スマホは、交感神経の暴走装置

眠れない夜の最大の敵は、スマホだと思います。

ブルーライトの問題もありますが、それより問題なのが情報と刺激を大量に摂取し続ける行為そのもので、交感神経を強烈に刺激します。SNSを見れば誰かの言葉が気になる。ニュースを見れば不安になる。動画を見れば脳が興奮する。

そのまま布団に入って「眠れない」と嘆くのは、ジムで全力ダッシュしてから「なんで心臓がドキドキするんだ」と言うようなもの。

寝る1時間前にはスマホを遠ざける。これが、お酒を飲むより先にやるべきことかもしれません(笑)

眠りは「管理」するものじゃなく、「整える」もの

わたしたちは不眠の原因を外に求めがちですが、ほとんどは体の内側の問題です。頭が熱い、足が冷たい、神経が立ちすぎている——。そのサインに気づいて、食と手当てで整えていくことは、薬やサプリに頼るより時間がかかるかもしれません。でも根っこから変える力があると思います。

眠っても取れない疲れの話でも書きましたが、体の不調はたいてい「内側からのサイン」。眠れない夜も同じで、体は何かを知らせようとしています。その声に、今夜は少しだけ耳を傾けてみてください。

はやま

不眠対策の前に、睡眠が体と脳にどれほど重要かを知っておくと、とりくむ心構えが変わります。こちらの記事もどうぞ。