バターも脂身も堂々と食べる——油の選び方と使い方

いろいろなお酢

我が家では冷蔵庫を開けると、バターが山積みになっている。

シチューを作るときは、ためらわずドバッと入れる。肉の脂身も好物で残したことがない。すき焼きの牛脂も、豚の角煮のとろっとしたところも、鶏皮のぱりぱりもぜんぶ僕の担当だ。小腹が空いたとき、バターをそのままひとかけら口に放りこむこともある。

そう言うと大抵、怪訝な顔をされる。太らないんですかと。

太らないのだ。少なくとも、油のせいで太ることはない。

太る原因は、脂でなく糖質

長いあいだ、脂肪は食卓の悪役だった。だが体に脂肪として蓄えられやすいのは、脂そのものよりむしろ糖のほうである。甘いものや白い炭水化物で血糖値が上がると、それを下げようとインスリンが出る。このインスリンが、余った糖をせっせと脂肪に変えて貯めこむ。太る仕組みの主役はこっちだ。

脂は腹持ちがいい。しっかり摂れば、食後の「まだ何か食べたい」があっさり収まる。バターをかじる男が太らないのは、たぶんそれで間食が減るからでもある。食後のアイスのほうが、僕の体にはよほど響く。

オメガ3脂肪酸を積極的に摂る

とはいえ、油ならなんでも好きに食べていいというわけでもない。むずかしい名前が並ぶけれど、要点はふたつだけだ。

ひとつは、オメガ3という油が、僕ら現代人に足りていないこと。えごま油、亜麻仁油、それから青魚の脂。体の中で炎症を鎮めたり、血をさらさらに保ったりする働きがある。ただし意識しないと、まず摂れない。我が家で土曜が刺し身の日と決まっているのはそのためだ。といっても刺し身に箸を伸ばすのは僕だけで、家族は生の魚を好まない。彼女たちには煮つけやフライやムニエルにして出す。

代わりに幅を利かせているのがオメガ6で、スーパーに安く並ぶ植物油の多くがこれだ。外食にも加工食品にもたっぷり入っている。悪い油ではないが、米にも大豆にも含まれているので、普通に暮らしていれば足りる。足りるどころか、放っておくと過剰になる。

トランス脂肪酸を意識的に減らす

もうひとつは、小さな子どもの体にとって大切な話だ。

トランス脂肪酸は、植物油に手を加えて人工的に固めた油である。マーガリンやショートニングがその代表で、安くて口あたりが良く、日持ちもする。パンにも菓子にもカップ麺にも入っている。作り手には便利な油なのだ。

だが、海外ではずいぶん前から規制が進んでいる。ニューヨーク市が二〇〇七年に飲食店での使用を禁じたのを皮切りに、アメリカは国として事実上の禁止に踏み切った。多くの国が含有量の表示を義務づけている。世界がそろって背を向ける食品というのはそう多くない。日本の規制はいまのところ緩いけれど、それは安全のお墨つきということではない。単に国の腰が重いだけだと思う。

油は体内で細胞膜の材料になる。三十兆個ある細胞のひとつひとつを包み、栄養や酸素を取り込み、老廃物を出す膜である。その材料がトランス脂肪酸だと、膜は本来のしなやかさを失う。悪玉コレステロールを増やし、善玉を減らすこともわかっている。

とりわけ影響を受けやすいのが、小さな子どもだ。成長期の体は細胞が猛烈な速度で入れ替わる。口に入るものの良し悪しがそのまま体に出る。だから娘が小さい頃から、我が家ではマーガリンを使わなかった。パンにはバター、菓子作りにはバターかココナッツオイル。コストは少し上がるが、毎日の積み重ねの影響は小さくない。買い物では、原材料表示にマーガリン、ショートニング、ファットスプレッド、加工油脂とあるものを避けている。

我が家の油の使い方

我が家の台所の棚にはいま油が五本並んでいる。冷蔵庫のバターを入れれば六本だ。

主役はこめ油である。国産の米ぬかから搾る油で、癖がなく、酸化しにくく、揚げ物にも強い。いちばん働いてくれる一本だ。

その隣がオリーブオイルで、炒め物にも使うし、仕上げにひと回しするだけで皿が華やぐ。

ごま油は中華の味つけに欠かせないが、これ一本だと風味が重たくなる。こめ油と混ぜて使う。

えごま油は生でしか使わない。オメガ3は熱にめっぽう弱いからだ。納豆に混ぜたりサラダにかけたりすると、クリーミーな甘さが出る。

ココナッツオイルは、パパのへなチョコを作るとき。それからナンプラーと合わせるとき。それだけで皿がとたんに東南アジアの屋台の顔をし始める。

最後に冷蔵庫のバターだ。飽和脂肪酸がどうこうと言われるが、僕は気にしていない。ギーに手を出したこともある。インドの澄ましバターだ。風味豊かで、うっとりするほどうまかった。ただ値段はバターの数倍。我が家の財務大臣の眉間に深いしわが寄ったのを見て、僕は普通のバターに戻った。

油は毎日使うものだ。塩や醤油を選ぶのと同じ気やすさで、同じくらい本気で選ぶようにしている。

台所では圧力鍋がシュウシュウと蒸気を吹いている。今夜はバターをたっぷり落としたボルシチだ。

匂いが漂ってくると、それだけで吾輩の喉はゴロゴロ鳴るのである。

 

油の話になると「飽和脂肪酸」「不飽和脂肪酸」という言葉が出てくる。簡単に言うと、こうである。

  • 飽和脂肪酸——常温で固体。バター、ラード、ヘット(牛脂)など動物性脂肪に多い。ココナッツオイルとパーム油は植物なのに固まる例外である。
  • 不飽和脂肪酸——常温で液体。オリーブオイル、えごま油、サラダ油など植物性の油に多い。

かつては「飽和脂肪酸=悪、不飽和脂肪酸=善」という図式が信じられていた。でもいまはその単純な二項対立が崩れている。問題は飽和か不飽和かではなく、どの油をどれだけ摂るかなのである。

不飽和脂肪酸の中でとくに重要なのが、オメガ3系とオメガ6系だ。どちらも体内で合成できないため、食べ物から摂る必要がある。この2つのバランスが現代人の健康を大きく左右している。

理想の比率はオメガ3:オメガ6=1:4とされている。ところが現代人の食事では、このバランスが完全に崩れているのだ。1:10、ひどい場合は1:20という人も少なくない。オメガ3が圧倒的に不足している。

なぜ問題になるかというと、それぞれこんな働きがあるからだ。

 

オメガ6系脂肪酸(リノール酸など)

  • 体内の炎症を促進する
  • アレルギーを起こす物質の合成を増やす
  • 過剰摂取すると血液がドロドロになりやすい
  • 代表的な油:サラダ油、コーン油、大豆油、ひまわり油、紅花油

オメガ3系脂肪酸(アルファリノレン酸、DHA、EPAなど)

  • 体内の炎症を抑制する
  • 花粉症などアレルギーを鎮める働きが期待できる
  • 血液をサラサラにする
  • 代表的な油:えごま油(しそ油)、亜麻仁油、青魚(DHA、EPA)

スーパーの棚に並ぶ手頃な植物油のほとんどはオメガ6系だ。飲食店の料理や加工食品に使われる安価な油も同じ。知らず知らずのうちにオメガ6を大量に摂り、オメガ3が極端に不足している。これが現代人の標準的な状態なのだ。

日本でアレルギー疾患を持つ人が増え続けているのは、この油のアンバランスやトランス脂肪酸の過剰摂取が原因のひとつだという専門家もいる。