甘くない話——血糖への影響と使い勝手から砂糖の代替甘味料を見る

甘味料が並ぶテーブル

我が家の女性陣は、あんこに目がない。

大福、どら焼き、おはぎ、ぜんざい。茶の間にあんこが登場すると、妻と娘の顔がぱっと明るくなる。皿の上の消えるのが早いこと早いこと。僕はどちらかといえば塩気の人間だが、この幸福そうな光景を眺めるのは好きだ。

さて、当時の僕は甘味料についてやたらくわしかった。

体を立て直すために猛勉強していた時期だった。血糖値への影響を示すGI値なる数値をそらんじ、スーパーの棚の前で講釈を垂れる。

「三温糖がヘルシーだと思ってるでしょ。あれはね、上白糖を作る過程で出るもので、中身はほぼ上白糖。色がついてるのはカラメルのせい」

妻は「へえ」と言いながら、ほとんど聞いていない。娘にいたっては最初から聞いていない。それでも僕は喋った。知識というのは、身につけたばかりの頃がいちばん喋りたいのである。

そんな男があんこ好きの家族と暮らしている。何が起こるかはもうおわかりだろう。

エリスリトールのあんこ

ある日、僕はひらめいてしまった。血糖値をほとんど上げない甘味料がある。エリスリトールという。カロリーもほぼゼロ。これであんこを炊けば、家族は罪悪感なしにあんこを食べ放題ではないか。健康と幸福の両立。完璧な計画である。

折りしも台所には、顔の見える農家さんから取り寄せた上等の小豆があった。僕は鼻歌まじりに小豆を洗い、じっくり炊き、丁寧に漉して、エリスリトールをたっぷり入れた。出来上がったこしあんは、つやつやと黒く光っていた。見た目は完璧だった。

味見もした。甘い。ちゃんと甘い。よし。

その晩、僕は得意げに白玉を茹で、自家製こしあんを添えて出した。

「わあ」と娘が言った。妻もうれしそうに匙を取った。僕は腕組みをして、家族が健康的な甘味に目覚める歴史的瞬間を待った。

娘と妻の反応

娘が、一口食べた。

そっと、箸が置かれた。

続いて妻が一口食べた。妻の箸も、音もなく置かれた。二人は顔を見合わせた。何も言わない。「まずい」とも「変な味」とも言わない。ただ、箸が置かれただけである。まことに、家族というのは残酷なものだ。文句を言ってくれれば反論もできる。無言の箸には返す言葉がない。

僕もあらためて食べてみた。甘い。甘いのだが、口の中がすうっと涼しいのだ。あんこを頬張っているのに、ハッカでも舐めたような冷たさがあとから追いかけてくる。あんこという食べ物の温かさと、あのほっとする甘さがきれいに抜け落ちていた。

エリスリトールには口中でひんやりする性質があると、本には確かに書いてあった。だが、まさかあんこがこんな涼しい顔になるとは思わなかった。

問題はそれが大量にあったことだ。

上等の小豆を袋ごと気前よく炊いてしまっていた。鍋いっぱいの誰も食べないこしあん。捨てるという選択肢は僕にはない。あの小豆は、顔の見える農家さんが丹精した小豆である。よし、僕が食べよう。言い出しっぺの責任である。

こうして、男とあんこの籠城戦が始まった。

エリスリトール餡を一人で消費する日々

朝、トーストに塗る。涼しい。昼、スプーンで直接すくって食べる。涼しい。夜、ヨーグルトに混ぜてごまかそうと試みる。ヨーグルトの冷たさと餡の涼しさが手を結び、二重に涼しい。

冷蔵庫を開けるたび、タッパーの中の黒い塊と目が合う。一向に減らないのだ。食べても食べても減らない。あんこというのは本来、あればあるだけうれしいものであるはずなのに、我が家の冷蔵庫には誰にも望まれないあんこがどっしりと鎮座し続けていた。

数日目の朝だったと思う。タッパーのふたを開けてスプーンを持ったまま、僕はしばらく動けなかった。静かにふたを閉じた。白旗である。

小豆に申し訳なかった。畑で小豆を育てた農家さんの顔が浮かんで、いよいよ申し訳なかった。健康のためのはずが、行き着いた先は食べ物を捨てるという、いちばん健康から遠い場所だった。あの朝の敗北感は、GI値の知識では説明がつかない。

ふだん使いはきび糖かてんさい糖に

それから、我が家の甘味は落ち着くところに落ち着いた。

日常使いは、きび砂糖かてんさい糖だ。精製度が低く、原料のミネラルがほのかに残っていて、何より味に深みがある。スーパーで普通に買えるのがいい。妻がいつもどちらかを買い物かごに入れてくる。

それから蜂蜜。これは僕が信頼している食べ物だ。人間は何千年も前から蜂蜜を大切にしてきた。時の古今、洋の東西を問わず、である。成分表で説明のつく範囲など、たぶんこの食べ物の一部でしかない。何千年ものあいだ人類がそばに置き続けてきたという事実そのものが、僕には何よりの推薦状に見える。

エリスリトールも悪い甘味料ではないのだと思う。冷たい飲み物なら、あの涼しさは気にならない。ただ、あんこにだけは使ってはいけなかった。なんだって相性というものがある。

ステビアもレギュラーメンバー

それからステビアの粉末が、コーヒー用に台所の隅にいる。あれは優秀だ。実を言うと、エリスリトールの敗戦のあと、懲りずにステビアであんこを炊いてみたことがある。今度は涼しくはなかった。まずくもなかった。ただ、何かが足りなかった。甘いのに、あんこを食べたというあの満足感がやって来ないのだ。腹の底にどっしり届く、こってりとした幸福感。あれは砂糖の甘さそのものが連れてくるものだったのだ。二連敗して、僕はようやく認めた。砂糖の代わりはいないのである。

いま、我が家のあんこはこう炊いている。

砂糖は菓子の本のレシピの半分か三分の一。さすがに本の通りでは多すぎるからそこは減らす。足りないぶんの甘さをステビアがそっと補う。主役は砂糖、ステビアはサポート役。二連敗の男がたどり着いた、これが講和条約である。

先日もあの農家さんの小豆でこしあんを炊いた。鍋から湯気が立って、台所が甘い匂いで満ちて、娘が「あんこだ」と寄ってきた。

箸は、置かれなかった。

砂糖の代わりになる甘味料

砂糖の代わりになる甘味料はいろいろある。ただ、種類が多く、どれを選べばいいか迷うことも。砂糖の代替甘味料を血糖値への影響度合いから見ていこう。特徴と使い勝手もあわせて解説。

血糖値にほぼ影響がない甘味料

血糖値を気にしている人や、ダイエット中におすすめ。文中のGI値は、その食品が血糖値をどれだけ上げやすいかの目安で、この記事では砂糖を100として比べている。なお資料によってはブドウ糖を100とするものもあり、測定の条件によっても数字には幅がある。絶対値より、どれが高くてどれが低いかという観点で見てほしい。

ステビア

GI値ゼロ。血糖値への影響なし。カロリーもほぼゼロの天然甘味料だ。南米原産のステビアという植物の葉から抽出されるもので、甘味度は砂糖の100〜300倍。ほんの少量で十分な甘さが出る。

液体タイプと粉末タイプがある。液体タイプはアルコールなどが含まれている製品が多く、独特の後味が気になることがある。粉末タイプはクセがなく、砂糖に近い感覚で使える。我が家では最初、液体を使っていたが、粉末が手に入るようになって切り替えた。液体特有の変な後味がなく、コーヒーにも料理にも使いやすくなった。出番がいちばん多い。

エリスリトール

エリスリトールはGI値ゼロ、カロリーほぼゼロの糖アルコール。甘味度は砂糖の7〜8割程度。低糖質スイーツの材料としてよく使われている。注意したいのは、口に入れたときにひんやりとした食感があること。冷たい飲み物に溶かすぶんには気にならない。和菓子など加熱調理に使うと仕上がりの風味が変わることがある。

キシリトール

GI値は7程度。カロリーも砂糖より約4割少なく、虫歯菌の繁殖を抑える効果があることでよく知られている。エリスリトールと同様、口に入れるとひんやりとした食感がある。清涼感がかなり強いので、料理に使うのは難しいというのが正直なところ。一度にたくさん摂ると下痢を起こすこともあるらしい。

パームシュガー・アガベシロップ

パームシュガーはヤシの花蜜を煮詰めてつくる砂糖で、GI値は35程度とされる。ただしこの数字は出典が限られていて、54とする資料もある。アガベシロップはリュウゼツランから採れる甘味料で、GI値は15〜30程度。ただ血糖値を上げにくいのは果糖が大半だからで、そのぶん肝臓に回る。量はほどほどにしたい。どちらも独特の風味があるので、料理やお菓子の味に奥行きが出るのも特徴だ。

砂糖より体にやさしい甘味料

血糖値への影響は砂糖とさほど変わらないが、精製度が低く、ミネラルなどの栄養素が残っている。砂糖からの乗り換えとして、まず試してみるのにちょうどいい選択肢。

てんさい糖・きび砂糖・黒糖

どれも精製度が低く、原料由来のミネラルが残っている。GI値は砂糖とほぼ同じ。てんさい糖はビートから、きび砂糖はサトウキビから作られる。黒糖はサトウキビの搾り汁をそのまま煮詰めたものだ。風味が強く、料理やお菓子に深みを加えてくれる。我が家の日常使いはきび糖かてんさい糖。僕は黒糖も好きだ。

冒頭でスーパーの棚の前で垂れた講釈のとおりで、三温糖にはヘルシーというイメージを持つ人も多いが、あれは上白糖を精製する過程でできるもので、ミネラルをほとんど含まない。色がついているのは加熱によるカラメルだ。

蜂蜜

ミネラルや酵素、有機酸など、砂糖にない成分を含む。低温殺菌か非加熱のものを選ぶと、蜂蜜本来の成分がそのまま受け取れる。海外産なら「ローハニー」と書かれたものを選ぶといい。国産は何も書いていなくても成分が生きた低温殺菌のものが少なからずある。安価な外国産の中には水あめなどで増量したものもある。産地や原材料はしっかり目利きしたい。GI値は61~87と製品によってばらつきが大きい。

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2 COMMENTS

時庭伸夫

写真のステビアは何処で購入できるのでしょうか?
よろしくお願いいたします。

葉山一郎

以前は海外通販で買えたのですが、現在は個人輸入ができなくなっています。ステビアにかぎらず、甘味料全般そのようですね。税関がらみかと。。。

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