魔法の味付けは、ない——うちの冬の食卓と、娘の歓声の話

お鍋を囲む家族

子どもが野菜を食べてくれない。

インターネットで検索すると、たくさんの「魔法の味付け」と「食べさせる工夫」が出てきます。細かく刻んでカレーに隠す、バターで炒めてチーズをかける、ケチャップで甘くする、天ぷらにする……。

試したことのあるお母さん、いますよね。わかります。

結論から言います。魔法の味付けは、ない。

……と書いてしまうと元も子もないのですが、せっかく相談していただいたので正直にお話したいと思います。最後に、うちが10年以上使い続けている「魔法ではないけれど、ちゃんと効く答え」もお伝えします。

「隠す」は、なぜうまくいかないのか

野菜を細かく刻んでハンバーグに混ぜる、スープに溶かし込む——これらの作戦が失敗する理由は、子どもの鼻と舌が想像以上に鋭いからです。

大人が「わからないはず」と思っていても、子どもはしっかり感じ取っています。そして一度「だまされた」と感じると、警戒心が強くなる。隠す作戦は手間のわりに、長期的には逆効果になりやすい。

「おいしい味付けで食べさせる」作戦も、長い目で見ると問題があります。

はやま

化学調味料をたっぷり使った、旨味が強くて味の濃い食事を続けると、味覚が少しずつ鈍くなっていきます。脳の報酬系が強い刺激に慣れてしまい、シンプルな素材の味では物足りなくなる。ジャンクフードやスナック菓子がやめられなくなるのと同じ仕組みです。頭がほしがるものを食べるようになって、体がほしがるものがわからなくなる。子どもの味覚を守るという意味でも、「濃い味でごまかす」のはできれば避けたい。

では、どうすればいいのか。

うちの答えは、鍋でした

うちは冬場、2日に1度か3日に1度くらいの頻度でお鍋を食べます。夏場も食べますが、頻度は減ります。

娘が小さいころから続けてきた習慣で、いまでも「今夜は鍋だよ」と言うと娘から歓声が上がります。「やった!」、あの声。親としてはこれがうれしい。

鍋の何がいいのかというと、野菜をたくさん食べられることです。ブロッコリーが苦手な子でも、鍋に入ってほかの食材と一緒になると、なぜか食べる。大根や人参も、スープをたっぷり吸って柔らかくなると別の食材のように食べてくれる。白菜はいくら入れてもかさが減って、気づくと1週間で丸ごと一個なくなっています。

魔法の味付けがあるとすれば、それは「煮えた出汁の香り」と「くたくたの触感」と「鍋を囲む雰囲気」の三つかもしれません。テクニックではなく、場の力です。

葉山家の鍋、基本の形

せっかくなので、うちの定番鍋を書いておきます。特別なレシピではありませんが、10年以上飽きずに続けているということは、それなりに正解に近いのだと思っています。

具材

白菜(たまにキャベツ)をたっぷり。人参と大根は煮えやすいように薄く短冊状に切って入れます。白ねぎはスライスしてこれもたっぷり入れる。風邪の予防もかねて。豆腐は必須。あとは気分で、油揚げ、ごぼうのささがき、レンコンの薄切り、ブロッコリー、なす、トマトなど旬の野菜を加えることもあります。

キノコ類は娘が苦手なので、食べたいときは後述の「一人鍋」で対応します。

お肉

鶏モモか豚バラ、豚小間など。鶏モモなら最初から野菜と一緒に煮ます。豚肉は最後に入れる。先に入れると硬くなるので。

出汁と味付け

お肉から十分に出汁が出るので、だしパックや昆布を足す必要はほとんどありません。味付けはと醤油と酒だけ。仕上げにごま油を少し垂らすことも。香りがよくなります。

塩と酒だけのシンプルな味付けにして、食べるときに大根おろしと醤油をかけていただくのも好きです。素材の甘みと旨味がストレートに届いて、これはこれでおいしい。

いいお肉があるときは、しゃぶしゃぶやすきやきに格上げします。これは誰でも喜びますよね(笑)

「一人鍋」という発明

家族のなかに苦手な食材がある人がいると、鍋の具材が制限されてしまいます。

そこでわが家が採用しているのが、一人鍋。家族それぞれに小さな土鍋かステンレス鍋を用意して、それぞれが好きな具材を入れていただく。わたしは魚や牡蠣が好き、妻はえのきだけやしめじが好き。娘はキノコが入らない自分専用の鍋。

これが意外と娘に好評でした。「自分専用のお鍋」という特別感があるのか、一人鍋の日はいつもより嬉しそうに食べています。苦手なものをよけながら食べるより、最初からないほうが気持ちよく食べられますからね。

体が喜ぶものを、体は知っている

娘は好物の日、テーブルに着くなり「やった!」と歓声を上げます。鍋の日も、そういう日のひとつです。

体が喜ぶものは体が知っているということだと思います。本来、人間の体はそういうふうにできている。化学調味料たっぷりの濃い味ばかり食べていると、その感覚が鈍くなっていく。脳の報酬回路が強い刺激だけに反応するようになって、体の声が聞こえにくくなる。

シンプルな出汁と塩だけの鍋を「やった!」と喜べる舌を、子どものうちに育てておくこと——。それが「魔法の味付け」より、ずっと長く効く答えだと、娘を見ていて感じます。

食べ物と味覚の話については、添加物の記事出汁の記事もあわせて読んでみてください。

はやま

「魔法の味付け」を探している時間があったら、鍋の準備をしてしまいましょう。白菜と豆腐と好きなお肉があれば、今夜にでもできます。その鍋を囲んだとき、子どもが「やった!」と言ったとしたら——それがあなたの食卓の答えです。