揚げ物をしていると、ときどき油が跳ねる。
ある夜、唐揚げを作っていた妻の手首に、熱い油がひとしずく落ちた。「痛っ」と声があがり、流水で冷やすこと数分。赤くなっていた。こういうとき、以前なら翌日は水ぶくれになり、しばらくじくじくと痛みが続いたものだ。
でもその夜、妻は患部を拭いてから、台所の引き出しを開けた。
「ひまし油、どこ?」
塗って、そのまま就寝。翌朝、赤みも痛みも、きれいに消えていた。
ひまし油を家に置くようになって、もう何年になるだろう。最初は半信半疑だった。きっかけは、一冊の不思議な本との出会いだった。
エドガー・ケイシーという、不思議な人
わたしは読書が趣味で、仕事柄もあってジャンルを問わずたくさんの本を読んできた。そのなかには、科学では説明のつかないものを真面目に扱った本もある。
立花隆の『臨死体験』や、森達也の『オカルト』——。一流のジャーナリストが、綿密な取材をもとに臨死体験や超常現象を書いた本だ。こういう本を読んでいると、「世界には、まだわたしたちの知らないことがたくさんある」という感覚が刺激される。わたしのセンス・オブ・ワンダーは人より少し大きいのかもしれない(笑)
そういう本を読み続けていたある日、おそらくAmazonのおすすめ欄にでも表示されたのだろう——エドガー・ケイシー(1877〜1945)という人物の本に行き当たった。数冊読んだ。実に興味深かった。
ケイシーはアメリカ・ケンタッキー州生まれ。催眠状態に入ると、会ったこともない人の病状を正確に言い当て、治療法を告げることができたという。自分では説明できない。目が覚めると何も覚えていない。でも、彼の「リーディング」と呼ばれる診断を受けた人たちは、次々と回復していった——。そういう人物だ。
シャーマン、予言者、奇跡の治療師。信じるかどうかはそれぞれに任せるとして、彼の膨大なリーディングのなかで、何百回も繰り返し登場するものがある。
それが、ひまし油だった。
はやま
ひまし油とは何か
ひまし油(英語でCastor Oil)は、トウゴマという植物の種子から搾り取られる油だ。原産地はおもにアフリカとインドで、何千年もの歴史を持つ。クレオパトラが目元のケアに使っていたという逸話まで残っている。
日本ではおもに工業用——印刷インキや潤滑油の原料として知られてきたこともあって、わたしたちにはあまり馴染みがない。でも世界に目を向けると、おばあちゃんの知恵袋に必ずといっていいほど登場する。怪我や捻挫、皮膚のトラブル、便秘のケアまで、一本で何役もこなす家庭の万能オイルとして長く親しまれてきた。
手元の百科事典(『マイペディア』)にはこうある。「下剤として内服。普通、加香されたものを常習便秘、食中毒、疫痢などに服用。また減摩油、印刷用インキ、ポマード、セッケンなどの原料」。かつては下剤としても使われていたとの記載があるということは、日本でも昔は使われていたのかもしれない。
主成分はリシノール酸という脂肪酸で、全体の85〜95%を占める。この成分が、ひまし油のさまざまな働きの鍵を握っているといわれている。
わが家での使い方
外用——火傷と傷に
わが家でいちばんお世話になっているのは、外用だ。とくに火傷。
料理中に油が跳ねる。フライパンの縁に触れてしまう。そういうとき、流水で十分に冷やしたあと、ひまし油を薄く塗っておく。通常なら水ぶくれになりそうなケースでも、翌日にはきれいになっていることが多い。痛みも早めに治まる印象がある。
妻もいつからか実感したらしく、揚げ物で火傷すると患部を差し出してくる。「ひまし油塗って」。在庫が切れると「買っておいて」と強めのお達しが出る(笑)。わが家ではもう、常備薬に近い存在になっている。
包丁で指を切ったときにも塗っておくと、治りが早い気がする。血がいつもよりたくさん出るかわりに、翌日にはだいぶ落ち着いていて、数日で跡形もなくなる。「得体の知れない不思議な力があるね」と妻とよく話している。
はやま
飲用——これは本当に注意してください(笑)
ケイシーの本に、ひまし油を飲むと腸がきれいになると書いてあった。「油なんて毎日食べてるし、たいしたことないだろう」と思った。そこがいけなかった。
飲んでしばらくして、トイレに駆け込んだ。それから半日か一日、繰り返し繰り返しトイレに駆け込む羽目になった。外出していたらと思うとぞっとする。
正直に言う。ひまし油の飲用は、かなり強力だ。腸の筋肉を収縮させ、詰まったものを押し出す力は、研究でも確かめられている(詳細は記事末尾の参考文献を参照)。
便秘が長年の悩みという方には選択肢のひとつになるかもしれないが、週3回以上は飲まないこと、空腹時に小さじ1杯程度から試すこと、かならず食用グレードのものを使うこと——この3点は絶対に守ってほしい。吐き気や腹痛が出たらすぐに医療機関へ。
わたしの体験は笑い話として受け取ってもらえれば十分だが、飲用を試みる場合はくれぐれも慎重に。
はやま
ほかにも、こんな使い方があるらしい
わが家では外用がメインだが、ひまし油の使い道はほかにもある。あくまで「こういう使い方をしている人もいる」という紹介として読んでほしい。
保湿 粘度が高く、肌への浸透力が高いとされる。乾燥が気になる部分に少量をなじませると、しっとりするという声は多い。べたつきやすいので、夜のスキンケアに向いているかもしれない。ココナッツオイルと混ぜて使う方法も知られている。
シミ・傷跡 脂肪酸が皮膚組織の再生を助けるという話があり、シミや傷跡のケアに使う人も多い。効果があらわれるまで時間がかかるが、毎日根気よく塗り続けるのがコツらしい。
育毛・頭皮ケア 毛根への血流を促し、髪を強くするという説がある。洗髪後に頭皮へよく揉み込んで、しっかり洗い流す。粘度が高いので落としにくいが、重曹を溶かしたぬるま湯でのすすぎが効果的だそうだ。
ひまし油パック(肝臓温湿布) ケイシーが最も熱心に勧めた使い方がこれだ。清潔な布にひまし油をたっぷり含ませ、体幹部の右側(肝臓から腸にかけて)をおおい、その上から温熱器で1時間ほど温める。デトックスや免疫サポートを目的として取り入れている人が、世界に多い。わたし自身はまだ本格的に試せていないが、いつかやってみたいと思っている。
なお、アロエベラも同じように、火傷や皮膚のケアに古くから使われてきた植物だ。ひまし油とアロエ、両方を引き出しに入れておくと、日常のちょっとしたトラブルにかなり対応できる。
選び方と使うときの注意
ひまし油を選ぶときは、低温圧搾(コールドプレス)・添加物フリーのものを。熱をかけて搾ると成分が変質しやすい。飲用に使う場合は、食用グレードであることを必ず確認してほしい。わが家で使っているのも、このタイプだ。
使い始める前には、パッチテストを忘れずに。腕の内側に数滴たらして一晩おき、翌朝に発疹や赤みがないことを確認してから使い始める。
妊娠中の方は使用を避けること。子宮の収縮を促す作用が知られており、早産のリスクがある(参考文献の論文参照)。ほかに薬を使用中の方も、事前に医師に相談を。
アメリカのFDA(食品医薬品局)は、ひまし油を「一般的に安全かつ有効である(Generally Recognized as Safe and Effective)」と位置づけている。もちろん万能薬ではないし、個人差もある。でも正しく使えば、台所や洗面台にそっと置いておきたい、頼れる一本になってくれると思う。
ケイシーが何百回も語り継いだ、あのオイルが、わが家の引き出しに静かに収まっている。半信半疑から始まった付き合いは、気づけばもう何年にもなる。
はやま
- Joni Loughran, Natural Skin Care
- Yankee Books, My Favorite Yankee Miracles
- Lindsey P, Essential Oils & Weight Loss for Beginners & Essential Oils & Aromatherapy
- Francine Milford, Advanced Holistic Aromatherapy
- William A. McGarey, The Oil That Heals: A Physician’s Success with Castor Oil Treatments
- A Reejhsinghani, Be Your Own Beautician
- Carolyn Levett, Reclaim Your Life – Your Guide to Aid Healing of Endometriosis
- Sorin Tunaru et al., 「Castor oil induces laxation and uterus contraction via ricinoleic acid activating prostaglandin EP3 receptors」(PNAS, 2012)
- Wikipedia, 「Ricinoleic acid」
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