おもちゃより、お出かけより、習い事より——食卓が、子どもを守る

テーブルの上の1000円札

娘が小学校6年生だったある年、学年の3割近くが不登校になりました。

クラスに30人いれば、9人がいない計算です。

最初は「今どきはそういうものなのかな」と思っていました。でも顔を思い浮かべると、みんな知っている子たちでした。娘と同じ保育園に通っていた子、公園でよく遊んでいた子、一緒にバーベキューに行った子、その子たちが、だんだんと学校に来なくなっていった。

食と健康について長く考えてきたわたしには、このことがずっと頭から離れません。今日は、その話を書きます。

あの子のこと

一時期、娘とよく遊んでいた子がいました。うちにも来ていた。明るくて、よく笑う子でした。

ある日、話の流れでその子がこう言いました。

「うちね、夜ごはんは1000円札が置いてあって、好きなもの買って食べていいんだ」

何でもないことのように言ったので、こちらも何でもないように受け取りました。でも、あとになってじわじわと気になってきた。毎晩、1000円札一枚。親御さんは共働きで忙しく、夕飯の支度をする余裕がなかったのだろうと思います。その事情を責める気持ちはまったくありません。それぞれの家庭に、それぞれの事情がある。

その1000円札も、きっと親御さんが一生懸命働いて用意した、精一杯の愛情だったはずです。ただその後、その子は少しずつ変わっていきました。言葉が荒くなった。娘が「なんか、怖くなってきた」と言うようになった。最終的に、その子は学校に来なくなりました。

これだけを根拠に「食事が原因だ」と言うつもりはありません。わたしが知っているのは、その子のごく一部だけです。ただ、わたしが見聞きした範囲では、不登校になった子の家庭では食事が乱れていることが多かった。外食やコンビニが中心、加工食品が多い、朝食を食べてこない——。

因果関係があるとは断言できない。でもわたしは、何か深いところでつながっていると感じています。

食事はただの「栄養」ではない

食事を「栄養素の補給」として考えると、1000円でコンビニ飯を買って食べても、カロリーさえ足りていれば問題ない、ということになります。

でも食事は、それだけのものではないとわたしは思う。

毎日、誰かが自分のために何かを作ってくれる——。台所から聞こえるリズミカルな包丁の音、立ちのぼる湯気と香り、そういう体験の積み重ねが、子どもの心の中に「自分は大切にされている」という感覚を育てます。

朝、みそ汁の香りがする家。夜、台所から何かが煮える音がする家。帰ってきたら食卓に夕飯がある家。これは栄養以上の何かです。「あなたのことを、今日も考えていたよ」という、親から子への毎日の静かなメッセージです。

それが毎晩1000円札になるということは——。栄養の問題以前に、そのメッセージが途切れるということです。子どもはそれを言葉では受け取りませんが、体と心で感じています。毎日、ひっそりと。

腸と心

近年、腸と脳は深くつながっていることがわかってきました。「腸脳相関」と呼ばれるものです。

精神的な安定に関わる神経伝達物質・セロトニンの約9割は、腸で作られています。腸内環境が整っていれば、セロトニンは安定して分泌される。腸内環境が乱れると、情緒も乱れやすくなります。

ジャンクフードや糖質過多の食事は、腸内の悪玉菌を増やします。さらに血糖値が急激に上がり、急激に下がる——この乱高下が、感情のコントロールを難しくする。「イライラしやすい」「些細なことで傷つく」「気持ちの切り替えが難しい」。こんな状態の背景に、腸の疲れがあるかもしれない。

「心が弱い」のではなく、「腸が疲れている」という可能性があるわけです。

難しく考える必要はないと思います。「食卓を整える→腸内環境が整う→情緒が安定しやすくなる」。そういうつながりが体の中にある、ということだけ、頭の片隅に置いておいてください。

うちも完璧ではなかった

誤解してほしくないので書いておきますが、わたしの食卓も決して完璧ではありませんでした。

ファストフードを食べに行くこともあった。インスタントに頼る夜もあった。外食で済ませた週末もある。娘はお菓子が大好きだったし、わたしも甘いものを完全に制限できたわけではない。

それでも、食卓を整えることへの意識だけは持ち続けました。発酵食品を毎日何かしら出す。根菜の味噌汁を出汁から作る。青魚を週に何度か食べる——。方向性だけは、ずっと一貫していた。

完璧な食卓を目指さなくてもいい。毎日の食事を、家族のために作ろうとしている——。その「つもり」が、子どもには伝わる。たとえ買ってきたお惣菜の日があっても、一緒に食卓を囲もうとするその気持ち(つもり)が、子どもの心の安全基地になると信じています。

はやま

親が子どもにしてやれる一番の世話は、食事だとわたしは思います。おもちゃより、お出かけより、習い事より——。毎日の食卓を整えることが、子どもの心と体を守ることへの、いちばん根本的な関わり方です。すぐには変化ほ実感できるわけではありませんが、続けていくことで、きっと「うちの子、最近落ち着いてきたな」と思う日がきます。

子どもの免疫力と食卓のつながりについては、こちらの記事でくわしく書いています。あわせて読んでみてください。