老後のお金が不安で、毎日ゆううつです——哲学者三人に相談してみたら

夜の食卓

「老後のお金が不安で、毎日ゆううつです。年金がいくらもらえるかもわからないし、いくら貯めれば安心なのかもわからない。節約しているつもりでも、ぜんぜん足りない気がして。このまま老後を迎えるのが、怖くてたまりません」(40代・女性)

こんな相談をいただきました。

これ、わたしにもありました(笑) 

夜、布団に入ると急に不安が押し寄せてくる。「老後のお金、大丈夫だろうか」「子どもに迷惑をかけたくない」「貯金が足りない気がする」——。昼間はなんとかやり過ごせても、静かな夜ほど不安は大きくなるもの。

でもこれは、わたしやあなたが弱いからではありません。未来が見えないとき、人はかならず不安になる。何千年も前から、ずっと変わりません。

そんな「夜の不安」に、今回は三人の哲学者——エピクテトス、モンテーニュ、仏陀がそっと寄り添ってくれます。彼らの言葉は、正論ではなく、「あなたはひとりじゃない」と伝えてくれる灯りのようなものです。

わたしもいまでこそ、お金のことを考えて悶々とする夜はなくなりましたが、それは老後の蓄えが十分にできたから……では残念ながらありません(笑)

三人の哲学者がいうように、少しだけ考え方を変えたからです。

エピクテトス——「未来の数字は、あなたの管轄外です」

エピクテトスは、ローマ時代に奴隷として生まれた哲学者です。主人に足を折られたとき、彼はこう言ったとされています。「折れたのは足だ。心ではない」。

自由も財産も人権さえも持たなかった男が、それでも誰よりも自由だった。その理由が、ストア哲学の核心にあります。

エピクテトスは、人が苦しむ理由をこう説明します。

——自分の管轄外のことを、管轄しようとするからだ。

老後のお金の不安は、まさにこれです。未来の数字は、あなたのいうことを聞かない。株価も、物価も、寿命も、景気も、誰にも動かせません。

エピクテトスはこう続けるでしょう。

「あなたが握れるのは、今日の小さな選択だけです。今日、何を食べるか。今日、体を動かすか。今日、誰に感謝するか。今日、どんな気持ちで眠りにつくか」

未来の数字ではなく、「今日の選択」があなたの味方なのです。

はやま

エピクテトスの言葉は、最初は冷たく聞こえます。でも、繰り返し触れていると、じんわり効いてくる。世界の見方そのものを変える言葉だからです。

モンテーニュ——「不安は、人間であることの証明だ」

16世紀フランスの思想家ミシェル・ド・モンテーニュは、「わたしが最もよく研究する主題は、わたし自身だ」と書きました。

彼は晩年、腎結石の激痛に苦しみながら、死への恐怖をそのまま言葉にしました。格好をつけず、「怖い」「不安だ」「わからない」と正直に書きつづけた人です。

そんな彼が残した言葉があります。

——不安は、人間であることの証明だ。

老後のお金が心配なのは、 あなたが弱いからでも、準備が足りないからでもない。 未来を大切に思っているからこそ、不安になると。

なぜならモンテーニュ自身もそうだったからです。 賢者でも、哲学者でも、みな同じだったのです。

不安を感じていることを、恥じる必要はありません。それはあなたが人間である証拠なのです。

はやま

モンテーニュの『エセー』は、難しい哲学書ではありません。不安な夜に読むと、妙に心が落ち着く本です。

仏陀——「その数字への執着が、あなたを苦しめている」

仏陀は、裕福な王族の子として生まれた。お金にも権力にも不自由しない環境で育ちながら、彼はすべてを手放して出家した。理由はひとつ。何をどれだけ持っていても、苦しみは消えないと気づいたからです。

仏教の根本にあるのは、「苦しみは執着から生まれる」という教えです。

「2000万円あれば安心」という思い込みは、執着の一形態です。2000万円貯めても、次は「3000万円あれば」と思うでしょう。執着は、満たされると次の執着を連れて帰ってきます。

仏陀は静かに問いかけます。

——老後のためのお金がなければ、あなたは幸せになれないのですか?

お金への執着が、「いまこの瞬間の幸せ」を見えなくしている。仏陀はそれをそっと指摘しているのです。

はやま

「執着を手放せ」というのは、「お金のことを考えるな」ではありません。備えは大事。そのうえで「それでも不安だ」と感じるなら、それは心の習性の問題かもしれないということです。

三人が口をそろえて言うこと

エピクテトスは「管轄外を手放せ」といい、モンテーニュは「不安は人間の証明だ」といい、仏陀は「執着が苦しみをつくる」といいました。

三人とも、「いくら貯めれば安心か」には答えてくれません。でも、同じ方向を向いています。

不安の正体は、未来の数字ではない。いまこの瞬間の心の持ち方にあると。

老後のお金の準備は、できる範囲でやればいい。でも「2000万円貯まるまで安心できない」と思っているなら、2000万円貯めても安心できないかもしれない。

あなたは、もう十分がんばっている。 未来は、今日のあなたの延長線上にある。今日を大切にできる人は、未来も大切にできる。

どうか、今夜は少しだけ、肩の力を抜いて眠ってください。

梅しょう番茶でもゆっくり飲んでから——。

はやま

「もっとお金があれば幸せなのに」という気持ちに、哲学者たちがどう答えたかを書いた記事もあります。よければあわせて読んでみてください。→もっとお金があれば幸せなのに——昔の哲学者や仏陀が出していた、シンプルな答え