「あなたは正直なひとですね」——六歳の娘と、風呂場の夜

お風呂で娘と

六歳の娘と風呂に入り、わたしは先に出た。

コップを忘れたのに気がついて、とりに戻ったときのこと。

「そのコップとって」

わたしがいうと、娘がさっとコップを手にとって抱えこんだ。

「なんだよ。こっちにおくれ」

ダメ、と娘はいって、洗面器をもう片方の手に持った。

「あなたの落としたのは大きいのですか? それとも小さいのですか?」

娘が笑う。

わたしも苦笑しながら、

「じゃあ、まんなかで」

予想しない答えに一瞬、娘は戸惑った顔をして、

「ちがう。大きいのか小さいのかどっちか!」

「小さいやつ」

娘はうれしそうな顔になった。

「あなたは正直なひとですね。ごほうびにこの大きいのをあげましょう」

「いらないよ」

わたしは苦笑しながら返事をしたが、娘は洗面器を押しつけてきた。

「はい、どうぞ」

わたしは受けとって、

「風呂上がりに一杯の水を飲むにはちょっと大きいなあ」

と笑った。


その翌日のこと。

廊下を怖がる娘に、おばけが退散する呪文があるのだよと教えた。

「赤パジャマ、青パジャマ、黄パジャマ。それからね、生麦、生米、生卵」

どもらずに両方とも続けて三回いえたらオーケー。いえなかったらエヌジー。

こんなルールで、二人でいい合いっこをして遊んだ。

ドリフターズの往年のメロディーに乗せたり、一回多くいった娘を大声を出して脅かしたり。

子どもといると、少年の心が風を受けた白いシーツのようにふわりと広がっていくのを感じる。

はやま

娘はいまもときどき、唐突に「あなたは正直なひとですね」といってきます。そのたび六歳の夜を思い出します。

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