野菜中心の食事がなぜ体にいいのか——アルカリ食という古くて新しい答え

アルカリ性食品の野菜たちがたくさんならぶキッチンテーブル

2013年、ビクトリア・ベッカムがある料理本についてSNSでつぶやいた。

それだけで、全世界が大騒ぎになりました。その本のテーマは「アルカリダイエット」。以来、ハリウッドセレブたちのあいだでアルカリ食はすっかり定番になり、10年以上が経つ今も実践者が絶えません。

でも、これは単なるセレブブームではありません。

わたし自身、この考え方と長く付き合ってきました。体調の悪かった時期は徹底的にやりました。今はもっとゆるく、頭の片隅に置いている程度です。それでも「知っておいて損はない」と確信しているのは、この理論がわれわれの体調変化をうまく説明してくれるからです。

「なんとなく野菜を食べると体が軽い気がする」「ジャンクフードを食べた翌日はだるい」——そんな体感に、論理的な裏付けを与えてくれる話です。

はやま

ただし正直に言うと、栄養学の世界ではこの理論は一度ほぼ否定されています。今も賛否が分かれる話題です。それも含めてお話しします。

アルカリ食(アルカリダイエット)って何?

まずはざっくりとした説明から。

アルカリ食(アルカリダイエット)は、体内をアルカリ化してくれる「アルカリ性食品」——野菜や果物、いくつかの種実(ナッツとシーズのこと)、豆類を中心に食べる食事法のことです。

反対に体内を酸性に傾ける「酸性食品」——肉類や卵、乳製品、ほとんどの穀類、加工食品(インスタント食品、冷凍食品、コンビニ食など)をなるべく減らす。

どうしてこの食生活が体にいいのか。推進派はこう説明します。

アルカリ性食品は痩身、美肌、生活習慣病の改善に役立ちます。体内で適切なpHバランスが保たれていれば、病気になることはありません。病気になっても、体内のアルカリ化を進めることで、改善あるいは治癒を促すことができます。

酸性食品は体内で酸をつくる原因となっています。体内のpHバランスが酸性に傾くと、病気にかかりやすくなります。酸性食品は慢性疾患に関連している可能性もあります。

「International Journal of Environmental Research and Public Health」(MDPI)誌で2012年に発表された研究報告(アルカリ食の健康面における利点を調査したメタアナリシス)によると、以下のようなことが報告されています。

  • アルカリ食によって果物や野菜の摂取量が増えると、体内のカリウムとナトリウムの比率が改善され、骨の健康に寄与、筋肉の消耗を減らし、高血圧や脳卒中などの慢性疾患を軽減する可能性がある。
  • その結果としての成長ホルモンの増加は、心血管の健康から記憶および認知まで多くの結果を改善する可能性がある。
  • 多くの酵素系の機能に必要とされる細胞内マグネシウムの増加は、アルカリ食のもうひとつの副次的な利点である。ビタミンDを活性化するのに必要な利用可能なマグネシウムは、ビタミンDアポクリン/外分泌系に多くの利益をもたらす。
  • 体内のアルカリ度が高まることは、ふだんより高いpHを必要とするいくつかの化学療法剤にとってさらなる利益をもたらしうる。

ちょっと小難しいですが、簡単にいってしまうと、骨が丈夫になるし、血圧は整うし、認知症もよくなるし、免疫力だって向上するしで、最高の食事法ですよ、ということです。

そもそもpHって?

「アルカリ食」を理解するには、pHという概念を押さえておく必要があります。難しくないので、ちょっとだけ付き合ってください。

pHとは、物質の酸性・アルカリ性の度合いを0〜14の数字で表したものです。

7が中性。7より小さいほど酸性、7より大きいほどアルカリ性。レモン汁はpH約2の強酸性、重曹の水溶液はpH約9のアルカリ性、というイメージです。

そして人間の血液は、健康な状態ではpH7.36〜7.44という、ごくわずかにアルカリ寄りの範囲に保たれています。これがほんの少しでもズレると、身体は大騒ぎします。pH7.0以下になると昏睡状態になり、7.8を超えても生命の危機に関わる。それほど精密に管理されているのです。

はやま

よく「血液を酸性にしないために野菜を食べよう」という言い方をしますが、血液のpHは食事ではほとんど変わりません。変わったら死んでしまうから(笑)。ここが後で出てくる「反対意見」の核心です。

では、アルカリ食の理論とは何なのか。もう少し掘り下げてみましょう。

食べ物が体内に残す「灰」の話

薪を燃やすと灰が残るように、食べ物も体内で代謝されると「灰のようなもの」、つまり老廃物が残ります。

この老廃物が酸性かアルカリ性かによって、食品を「酸性食品」「アルカリ性食品」に分類するのがこの理論の出発点です。

注意したいのは、食品自体の味や性質とは別の話だということ。酸っぱいレモンや梅干しは、代謝後にアルカリ性の老廃物を残すので「アルカリ性食品」です。一方、お肉やお米は代謝後に酸性の老廃物を残すので「酸性食品」に分類されます。

大まかに分けるとこうなります。

アルカリ性食品:野菜、果物、豆類、海藻、ナッツの一部
酸性食品:肉類、魚介類、乳製品、穀類、加工食品、砂糖、アルコール
中性:天然の油脂

くわしい一覧は、酸性食品とアルカリ性食品の一覧表をご覧ください。

この理論、140年の歴史がある

酸性食品・アルカリ性食品の概念は、実は140年ほど前に登場しています。スイスの生理学者ブソゲが「食肉の硫黄が体内で硫酸に変化し、体組織を酸性にする」と主張したのが始まりです。

その後、当時の学界に広く受け入れられ、研究が重ねられていきました。ところが20世紀に入ると反論が噴出します。

日本でも国立健康・栄養研究所の山口迪夫博士が論文で正面から否定しました。要旨はこうです。

「人間の身体には血液のpHを一定に保つ3つの調節機構がある。①血液自身の緩衝作用、②肺による二酸化炭素の排出、③腎臓による酸性物質の排泄。これらが巧みに働くから、食べ物ごときで血液が酸性やアルカリ性に傾くことはない」

この反論は広く受け入れられ、「酸性食品・アルカリ性食品」という言葉は栄養学の教科書から姿を消していきました。

はやま

ここまで聞くと「じゃあやっぱりデタラメだったのか」となりそうですが、話はここで終わりません。

でも、完全に終わった話でもない

1990年代、RemerとManzというふたりの研究者が「PRAL(食事性酸塩基負荷)」という新しい指標を提唱しました。食品のミネラル成分から、体内がどの程度酸性側に傾くかを推定しようとするものです。

彼らの研究では、果物や野菜が多い食事ほど尿のpH値が高く(アルカリ寄り)、肉や穀物が多い食事ほど低く(酸性寄り)なることが示されました。

ポイントは「血液のpH」ではなく「尿のpH」です。

血液のpHは腎臓が必死に調整して一定に保っています。その過程で「酸性の老廃物」を尿として排泄しているわけです。つまり、食事が身体に与える酸・アルカリ負荷は、尿に反映されるということです。

名古屋女子大学の錦見盛光教授らの論文も、かつての全面否定は「いささか乱暴だったのではないか」として、「酸負荷食品・塩基負荷食品」という名称で栄養学の中に復活させるべきだと論じています。

研究者たちの間でも、この話の「再評価」が静かに進んでいるのです。

反対意見もご紹介

とはいえ、主流の栄養学からの反論もちゃんとあります。代表的なものを紹介します。

「血液のpHは食事では変わらない」
これは正しいです。前述のとおり、血液のpHは生命維持のために厳密に管理されており、食事程度では変動しません。「血液をアルカリ性にする食事」という表現は、厳密には不正確です。

「アルカリ食の効果はアルカリ化そのものではなく、野菜・果物を多く食べることの結果では?」
これも鋭い指摘です。アルカリ食を実践すると必然的に野菜・果物の摂取量が増え、加工食品や砂糖が減る。その食事内容が体によいのであって、「アルカリ化」という機序は関係ないのでは、という見方です。

はやま

わたし個人の見解ですが、この反論の半分は正しいと思っています。でも「だからアルカリ食に意味がない」とはならないとも思っています。理由は後で。

それでもわたしがこの考え方を手放さない理由

栄養学が「否定」しているのに、なぜこの理論を大切にしているか。

ひとつは、実際に体調が変わるからです。理屈の正しさより、自分の身体の反応が正直だから。

もうひとつは、この理論が「なぜ野菜を食べると体が軽いのか」「なぜジャンクフードを食べた翌日はだるいのか」という体感に、納得のいく説明を与えてくれるからです。完璧な理論でなくても、体の声を理解するための「地図」として機能してくれる。

さらに言えば、アルカリ食が推奨する食べ方——野菜・果物を多く、加工食品・砂糖・過度な肉類を少なく——は、栄養学的にも否定しようがない食事スタイルです。「理論が正しいかどうか」と「実践する価値があるかどうか」は、別の話なのです。

マクロビオティックが「中庸」を勧めるのも、和食が世界から注目されるのも、こういう視点から見ると腑に落ちます。「なぜ日本の伝統的な食事が体に良いのか」を説明するひとつの言葉として、アルカリ食という概念は使えると思っています。

実践するなら——ゆるくやるのがいちばん

難しく考える必要はまったくありません。基本的な考え方はシンプルです。

アルカリ性食品(野菜・果物・豆類)と酸性食品(肉・穀物・加工食品)の比率を、およそ6〜8対2〜4にする。完璧にやる必要はありません。「今日は肉が多かったから、明日は野菜をたっぷり」くらいの感覚で十分です。

酸性食品を「悪者」にしなくていいです。お肉もたまのジャンクフードも、人生の楽しみです。「ほどほどに」「バランスよく」というのが、わたしの今のスタンスです。我慢のストレスもまた、体にはよくないので(笑)。

まず意識してほしいのは、毎日の食事でアルカリ性食品(要するに野菜や果物)がどのくらい占めているかを、ちょっと振り返ってみること。それだけで、自然と食事が変わっていきます。

具体的にどういうものがアルカリ性食品と酸性食品なのか知りたい方は、こちらを参考にしてください。

アルカリ性食品の野菜たちがたくさんならぶキッチンテーブル 酸性食品とアルカリ性食品の一覧

実践のヒント

新鮮なものを選ぶ
野菜や果物は鮮度が落ちるとアルカリ度も下がります。できるだけ産直や旬のものを。冷凍食品や缶詰は栄養素が失われやすいので、できれば生や軽い調理で。

調理は高温・長時間を避ける
炒め物は強火で一気にではなく、中火でさっと。熱に弱いビタミン類が守られます。

水をよく飲む
1日2リットルを目安に。老廃物の排泄を助けます。

朝に野菜か果物を取り入れる
朝食に野菜スムージーやフルーツをひとつ加えるだけで、1日のアルカリバランスがぐっと改善します。

気になる人はリトマス紙で試してみる
薬局やネットで手に入るpHストリップ(リトマス試験紙)で尿のpHを測ってみるとおもしろいです。食事内容によって数値が変わるのが実感できます。朝2回目の尿で測るのが目安です。

人類は元々、アルカリ食だった

最後にひとつ、興味深い話を。

農耕が始まる前、狩猟採集で生きていた時代の人類の食事を分析した研究によると、その87%はアルカリ性食品が中心だったそうです。何百種類もの新鮮な野菜、果物、木の実、根菜を食べ、肉はたまに食べる程度。そういう食事に適応して、人体は進化してきました。

現代人の食事と比べると、いかに逆転してしまったかがわかります。

アルカリ食とは、実は「先祖返り」なのかもしれません。

はやま

理論が正しいかどうかより、「体が本来求めているものに近い食事をする」という発想が大切だと思っています。この記事で紹介した考え方を頭の片隅に置いておくと、日々の食事の選択が少しずつ変わっていく——。そしてある日「あ、体調がいい」と気づく。そういう変化が起きたとしたら、わたしはとても嬉しいです。

食事を変えることは、薬を飲むことより地味で遅い。でも、確かなものだとわたしは感じています。


※本記事は食・栄養に関する情報提供を目的としています。医療行為や特定疾患の治療・予防を目的としたものではありません。体調に不安のある方は専門家にご相談ください。

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