長い夜(第三章) やまない家鳴り

大学生の部屋

心霊写真らしきものを見た日の夜、天井がぎしぎしときしみ出した。

最初は家鳴りかなと思った。

だが、その音は一向にやまなかった。

——ギシ……ギシギシ。ミシ……ミシミシミシ。

断続的に音がする。なんだ、これは。僕の部屋は二階建ての二階にあった。上階を誰かが歩いているということはありえない。古い家だったが、こんなふうに続けざまに家鳴りがしたことはなかった。その日、それは明け方まで続いた。

翌日はレンタルビデオ店のバイトがあった。

午前零時に店を閉め、後片づけを終えて帰宅すると一時頃になる。シャワーを浴び、自室で寝転がって映画のビデオを観ていたとき、また始まった。

さすがに気味が悪い。ねずみでもいるのか。だが小動物が走り回るような音ではなかった。ミシミシミシ、ギシギシ。もっと重量のあるものが、天井の上をゆっくりと移動しているような気配がある。この日も、空が明るくなるまでそれは続いた。

その翌日も、さらに翌日も——。

僕はそれを心霊現象だとは認めなかった。何か合理的な説明がつくはずだ。そう思い、昼間に天井裏に潜り込んだ。四つん這いで進むたび、埃が舞い上がって鼻にまとわりついた。けれども何もいなかった。

夜中に音がしたら、バットで天井を突いたりもした。そうするとしばらく静かになるのだが、数分後にまた戻ってきた。家鳴りはいつも深夜二時頃に始まり五時頃まで続く。天井裏を何かが這っていて、電気を消すとそれがすぐそばまでやってくる。そんな気がしたから、僕は毎晩、明け方まで映画を観たり音楽を聴いたりしてやり過ごしていた。

そんな日々が二週間ほど続いた。鏡を見ると、目の下に青黒いくまができていた。我ながらよく頑張ったと思う。

ある夜、ベッドに寝転がってテレビを観ていたら、部屋の反対側、本棚の高い位置で、紙が一枚ずつゆっくりめくれるような音がした。

飛び起きた。本棚の高い位置から紙でも落ちたのかと思い、確かめたが何もなかった。これ以上、無視できなかった。やはりあの写真だ。

実は、何かあったら相談しようと決めていた人がいた。バイト先で仲の良かった、二つ年上の玲子さんだ。

玲子さんから以前、こんな話を聞いていたのだ。

——知り合いに霊能者がいる。芦屋に住んでいて、私が尊敬している人。定期的に会っている。以前はふつうの専業主婦だったけれど、子どもが三歳になってから、誰もいない場所を指さしてよくこんなことを言うようになった。「ママ、あそこに人がいるよ。悲しそう。お花をあげて」

その人はそれまで宗教や霊能の世界とはまったく無縁だったが、子どもの「見える」をきっかけにして、いつの間にか霊能の仕事を始めていたという。お金ではなく、純粋に人助けのために自宅のマンションを改装し、現在は霊障に悩む人たちの相談に乗っているという。

その話を思い出し、僕は矢も楯もたまらず、くだんの写真を手に玲子さんに会いに行った。一息に事情を説明すると、彼女は写真をじっと見てこう言った。

「あの人に送って一度見てもらったほうがええね。この写真は預かっとくね」

むろん、その夜も天井はギシギシと鳴り、僕の目の縁取りは一段と黒くなった。

数日後、バイト先で玲子さんに言われた。

「あの人から電話があって、すぐ来たほうがいいって言うてはる。どうする? いまから行く?」